Works
Amplifier
SANSUI
Repair
SANSUI AU-α907i MOS Limited
音が出ない・断続的に途切れる症状を改善し、MOS搭載アンプの安定性を取り戻す
Published: 2026年7月 | Category: Works|プリメインアンプ修理事例 | Crafted Audio Services
音が出ない、音が出ても断続的に途切れる、ボリューム操作時にガリが出る。
そうした症状が見られた SANSUI AU-α907i MOS Limited をお預かりし、故障箇所の修理と簡易メンテナンスを実施しました。
今回の不具合は、ドライバー基板およびパワーアンプ基板内のはんだ割れにより、回路の接続状態が不安定になっていたことが主な原因でした。
あわせて、出力リレー、ボリューム、各種スイッチ、RCA端子などにも経年による接触不良が確認されたため、各部を分解・清掃し、安定した動作状態へ整えています。
Basic Info
基本情報
| メーカー | SANSUI(サンスイ) |
| モデル | AU-α907i MOS Limited |
| 種別 | プリメインアンプ |
| 発売年 | 1987年 |
| 当時定価 | 260,000円 |
| 症状 | 音が出ない、出ても断続的、ボリュームガリ |
| 作業内容 | 故障修理+簡易メンテナンス |
Overview
概要
SANSUI AU-α907i MOS Limited は、SANSUI創立40周年を記念して発売された限定生産モデルです。
パワー素子にMOS-FETを採用し、当時のSANSUIらしい物量と設計思想が込められたプリメインアンプです。
MOS-FET搭載機は、現在では部品そのものが貴重になっているものも多く、作業時には静電気対策を含めた慎重な取り扱いが必要になります。
また、この時代の高級アンプは、単に故障箇所を直すだけでなく、スイッチ、ボリューム、リレー、端子など、信号経路に関わる接点部の状態が音質や動作安定性に大きく影響します。
今回の作業では、オリジナルの状態をできるだけ尊重しながら、不具合の原因となっている箇所を見極め、必要な範囲で修理とリフレッシュを行いました。
Diagnosis
診断
申告症状
「音が出ない」
「音が出ても断続的に途切れる」
「ボリューム操作時にガリが出る」
お預かり後の確認で、ドライバー基板およびパワーアンプ基板内に、トランジスタ周辺のはんだ割れが確認されました。
はんだが割れることで、接触したり離れたりを繰り返し、電気的に非常に不安定な状態となっていました。
このような状態では、電源投入直後は音が出ても、時間経過や振動、温度変化によって音が途切れることがあります。
また、出力リレーの接点にも経年による接触不良が見られ、音切れや不安定動作の一因となっていました。
ボリュームについても、メインボリュームとバランスボリュームの内部に汚れや摩耗粉が蓄積しており、操作時のガリ発生につながっていました。
確認された不具合
・ドライバー基板、パワーアンプ基板のはんだ割れ
・出力リレー接点の接触不良
・メインボリューム、バランスボリュームのガリ
・フロントパネル各種プッシュスイッチの接点劣化
・固定用ボンドの劣化による周辺部品への影響リスク
・RCA端子接続面のくすみ、白錆状の汚れ
・一部コンデンサの劣化
Repair Process
修理工程
01 状態確認・症状再現
まずは申告症状の確認を行い、音が出ない、または断続的に音が途切れる症状の再現を確認しました。
あわせて、ボリューム操作時のガリ、スイッチ操作時の接触状態、出力リレーの状態を点検しました。
02 基板部のはんだ割れ修正
ドライバー基板およびパワーアンプ基板内のトランジスタ周辺に、はんだ割れが確認されました。
割れたはんだ部分は接触が不安定になり、音切れや無音症状の原因となります。
該当箇所を確認し、必要な部分に再はんだ処理を実施。
通電時の接続状態を安定させ、断続的な音切れの改善を図りました。
はんだ割れ箇所の拡大写真。接触と離脱を繰り返す不安定な状態でした
03 出力リレー接点の清掃・測定
出力リレーは、経年により接点の抵抗値が上昇し、接触不良を起こしていました。
リレーを取り外して接点状態を確認し、接点清掃を実施しました。
清掃後は抵抗値を測定し、接点状態が改善していることを確認したうえで再装着しています。
音の出口に近いリレー接点は、わずかな接触不良でも音切れや左右差の原因となるため、丁寧な確認が必要です。
リレー接点の確認、清掃、抵抗値測定
04 ボリュームの分解清掃
メインボリュームとバランスボリュームは、完全分解を行いました。
内部に蓄積した汚れやガリ粉を除去し、摺動子のクリーニングを実施しています。
ボリュームのガリは、単に洗浄剤を吹き付けるだけでは一時的な改善にとどまる場合があります。
内部の状態を確認し、接点面や摺動部を適切に清掃することで、操作時のノイズ低減と安定した動作を目指します。
ボリューム分解清掃の様子
05 各種プッシュスイッチの分解清掃
フロントパネルにある各種プッシュスイッチを取り外し、完全分解にて接点清掃を実施しました。
清掃後は専用グリースで接点を保護し、接触状態の安定化を図っています。
ヴィンテージアンプでは、スイッチ類の接触不良が音切れ、片chの不安定、ノイズ発生の原因になることが多くあります。
外から見えない部分ですが、信号が通る重要な接点です。
プッシュスイッチの完全分解と接点清掃
06 MOS-FET周辺の静電気対策
AU-α907i MOS Limited に使用されているMOS-FETは、静電気に弱く、現在では貴重な部品です。
作業時には静電気対策を行い、取り外したMOS-FETの端子にも保護処置を施しながら作業を進めました。
貴重なオリジナル部品を不用意に傷めないことも、ヴィンテージ機器の修理では重要なポイントです。
取り外したMOS-FETの端子に静電気対策の保護処置
07 固定用ボンドの除去とコンデンサ確認
パワーアンプ基板では、電解コンデンサ周辺に固定用ボンドが使用されていました。
経年したボンドは変質し、周辺部品の腐食や不具合につながる場合があります。
該当箇所のボンドを除去し、周辺を清掃しました。
今回は簡易メンテナンスの範囲での作業のため、電解コンデンサを一律に交換するのではなく、静電容量とESRを確認し、不具合が認められるものを中心に交換しています。
今回はバイポーラコンデンサを交換対象としました。
劣化ボンドの除去箇所と、コンデンサの測定確認
08 RCA端子の取り外し・研磨清掃
背面パネルのRCA端子は取り外し、接続面の研磨清掃を行いました。
この時代のアンプでは、金メッキ端子であっても表面に白錆のような汚れが発生している場合があります。
ただし、研磨しすぎると金メッキを傷めてしまうため、状態を見ながら慎重に作業します。
清掃後は接触面を整え、接続時の安定性を回復させています。
RCA端子の清掃前(左)と清掃後(右)
09 アイドル電流・オフセット調整、最終確認
修理作業後、アイドル電流とオフセットの調整を実施しました。
その後、筐体内外のクリーニングを行い、音出し確認、操作確認を経て作業完了としました。
筐体内部クリーニング後の状態
Main Work
主な作業内容
| 基板はんだ割れ | 不具合箇所の再はんだ処理 |
| 出力リレー | 接点清掃、抵抗値測定、再装着 |
| メインボリューム | 分解清掃、ガリ粉除去、摺動子清掃 |
| バランスボリューム | 分解清掃、ガリ粉除去、摺動子清掃 |
| プッシュスイッチ類 | 取り外し、完全分解、接点清掃、接点保護 |
| MOS-FET周辺 | 静電気対策を行いながら慎重に作業 |
| 固定用ボンド | 劣化ボンド除去、周辺清掃 |
| コンデンサ | 測定確認のうえ、不具合部品を交換 |
| RCA端子 | 取り外し、接続面の研磨清掃 |
| 最終調整 | アイドル電流、オフセット調整 |
| 仕上げ | 筐体内外クリーニング、音出し確認 |
Results
修理結果
作業後、音が出ない、または断続的に音が途切れる症状は改善しました。
ボリューム操作時のガリも改善し、各種スイッチ操作時の接触状態も安定しています。
RCA端子や出力リレーなど、信号経路上の接点部も清掃・確認を行い、全体として安定した動作状態へ整えることができました。
改善された症状
・音が出ない症状の改善
・断続的な音切れの改善
・ボリュームガリの改善
・スイッチ接点の安定化
・出力リレー接点の接触改善
・RCA端子の接触状態改善
・アイドル電流、オフセット調整による動作安定化
Technician Comment
技術者コメント
SANSUI AU-α907i MOS Limited は、当時のSANSUIが持っていた技術と物量が感じられる、非常に価値あるプリメインアンプです。
MOS-FETを搭載した限定モデルということもあり、現在では部品の扱いにも十分な注意が必要になります。
今回の作業では、音が出ない、音が途切れるという症状に対して、単に一箇所だけを見るのではなく、基板のはんだ割れ、リレー接点、ボリューム、スイッチ、RCA端子など、信号が通る部分を中心に確認しました。
ヴィンテージアンプでは、不具合の原因がひとつだけとは限りません。
はんだ割れ、接点劣化、端子の汚れ、部品の劣化が重なり、一つの症状として表面化していることが多くあります。
今回は簡易メンテナンスの範囲ではありますが、オリジナルの状態をできるだけ尊重しながら、必要な箇所を見極めて手を入れています。
むやみに部品を交換するのではなく、残すべき部分は残し、直すべき部分を確実に整える。
このバランスが、ヴィンテージ機器の修理ではとても重要だと考えています。
SANSUIらしい力強さと密度感を、これからも安心して楽しんでいただけるよう、各部を丁寧に仕上げました。
サービス体制拡充のお知らせ
平素よりクラフテッド・オーディオ・サービスをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、ヴィンテージオーディオを安心して使い続けていただくためのサービス体制を拡充し、本日プレスリリースを配信いたしました。
拡充したサービス体制
修理・メンテナンス(3つのプラン)を中心に、以下のサービスを一つの窓口でご相談いただけます。
・修理・メンテナンス(スポットリペア/スタンダードメンテナンス/フルオーバーホール)
・試聴スペースでの実機確認(ご購入前の試聴・整備後の仕上がり確認)
・コンディションチェック(点検レポートのお渡し)
・買取・下取り
・延長保証
・フィールドサービス(重量物の引き取り・お届け・設置)
大切な一台と、本来の音で長く付き合っていただくために。名機が本来の音を取り戻し、末永く鳴り続けていくまでのすべての時間を支えてまいります。
プレスリリース
詳細は下記のプレスリリースをご覧ください。
プレスリリース全文はこちら
大切な一台のこと、まずはお気軽にご相談ください。
クラフテッド・オーディオ・サービス
電話:0120-888-079(受付時間 平日 9:00〜18:00)
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2026年7月3日発売の『analog Vol.92』に、Crafted Audio Servicesの記事が掲載されました。
今回の記事では、アナログオーディオ機器の修理・メンテナンスに対する当サービスの考え方や、長く使われてきた機器と向き合ううえで大切にしているポリシーについてご紹介いただいています。
アナログ機器の修理に対する考え方
記事では、Crafted Audio Servicesが取り組むアナログオーディオ機器の修理・メンテナンスについて、実際の作業現場とあわせて取り上げていただきました。
長年使われてきたオーディオ機器では、音が出ているように見えても、内部では部品の劣化や接点不良、動作の不安定化が進んでいることがあります。
また、ヴィンテージ機器の場合、すべての部品を新しいものに交換すればよいというわけではありません。
・機器ごとの構造や設計思想を理解したうえで、どこを残すべきか、どこに手を入れるべきかを見極めること。
・必要な整備を一つひとつ丁寧に積み重ね、機器本来の性能や音の魅力をあらためて楽しんでいただける状態へ整えること。
それが、当サービスが大切にしている修理・メンテナンスの基本姿勢です。
今回の記事を通じて、Crafted Audio Servicesの取り組みや、アナログオーディオ機器と向き合う姿勢を少しでも感じていただければ幸いです。
『analog Vol.92』を、ぜひお手に取ってご覧ください。
オーディオの症状別ガイド
第3回:片CHから音が出ない
右だけ鳴る、左だけ鳴らない。その原因と対策
Crafted Audio Services
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2026年7月
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、片側のチャンネルだけ音が出ないという症状に出くわすことがあります。
「右CHは正常に鳴っているのに、左CHだけ音が出ない」「しばらく使っていると片側だけ音が消える」「音量を上げると、突然片側の音が復帰する」——こうした症状は、一見すると原因が分かりにくく感じられます。しかし、信号の流れに沿って冷静に切り分けていくと、どのブロックで不具合が起きているのか、ある程度の見当をつけることができます。
昔の取扱説明書には、最後のほうに「故障かな?と思ったら」というページがよくありました。「スピーカー端子は正しく接続されていますか」「RCAピンジャックの差し込みが緩くなっていませんか」「スピーカーA/Bの切り替えは正しく設定されていますか」といった基本的な確認項目です。
もちろん、こうした確認は大切です。ただ、ヴィンテージアンプの場合は、それだけでは済まないケースも多くあります。ここでは、ケーブルの接続ミスやスピーカーの切り替え設定といった基本的な要因を除き、アンプ本体側で起こりやすいトラブルを中心に見ていきます。
片CH出ずで考えられる主な原因
プリメインアンプで片側の音が出ない場合、原因として多いのは次のような箇所です。
・入力基板、RCA端子まわりの接触不良や半田割れ
・入力セレクター、スピーカー切替スイッチなどの機械接点不良
・プリアンプ部、パワーアンプ部の部品不良
・メインボリューム、バランスボリュームの接点不良
・出力リレーの接点不良
・基板上の半田クラック、配線材やコネクターの接触不良
片側だけ音が出ないという症状は、「片側のスピーカー出力にだけ問題がある」と考えがちですが、実際には入力端子から出力端子まで、信号経路上のどこで途切れても発生します。そのため、最初に重要になるのが、プリアンプ部の問題なのか、パワーアンプ部の問題なのかを切り分けることです。
まずはプリアンプ部とパワーアンプ部を切り分ける
昔のプリメインアンプには、プリアンプ部とパワーアンプ部を分離して使用できる機種が多くあります。背面に「PRE OUT」「MAIN IN」「POWER AMP IN」などの端子がある機種です。このタイプのアンプでは、プリアンプ部をバイパスして、パワーアンプ部へ直接信号を入れることで、症状の切り分けができます。
たとえば、CDプレーヤーなどの可変出力を使い、音量を最小にした状態から、極小レベルの信号をPOWER AMP INに入力します。この状態で片側しか音が出ない場合は、プリアンプ部ではなく、パワーアンプ部以降に不具合がある可能性が高くなります。
逆に、POWER AMP INへ直接入力した場合に両CHとも正常に鳴るのであれば、パワーアンプ部は生きており、入力端子、セレクター、ボリューム、トーン回路、フィルター回路など、プリアンプ部側に原因があると考えられます。
ただし、この確認を行う場合は注意が必要です。POWER AMP INは、通常のAUXやCD入力とは違い、ボリューム回路を通らずにパワーアンプへ信号が入る構造の機種もあります。入力レベルが高い状態で接続すると、突然大音量が出る危険があります。必ず音量を最小にし、可変出力側も絞った状態から慎重に確認する必要があります。
パワーアンプ部で起こりやすい原因
POWER AMP INへ信号を入れても片側の音が出ない場合、原因はパワーアンプ部、出力リレー、スピーカー切替部、スピーカー端子周辺などに絞られてきます。
出力リレーの接点不良
ヴィンテージアンプで非常に多いのが、出力リレーの接点不良です。パワーアンプの出力は、保護回路を経由し、リレー接点を通ってスピーカー端子へ送られます。このリレーは、電源投入時のポップノイズ防止や、DC漏れなどの異常時にスピーカーを保護するための重要な部品です。
ところが、リレー内部の接点は機械接点です。長年の使用によって酸化、硫化、摩耗が進むと、接点抵抗が増え、片側だけ音が出ない、音が小さい、歪む、途切れるといった症状が出ます。
出力リレー不良で特徴的なのは、「ある程度音量を上げると急に音が出る」という現象です。これは、小信号時には接点表面の酸化膜を信号がうまく通過できず、ある程度大きな信号が入った瞬間に接点が一時的に導通するために起こることがあります。音量を上げたら直ったように見えても、根本的にはリレー接点の状態が悪くなっている可能性があります。
スピーカーA/B切替スイッチの接点不良
昔のアンプでは、スピーカーA/Bの切り替えに機械式スイッチを使っている機種が多くあります。現在の機種ではリレーで出力を切り替える設計も多いですが、1970〜80年代のアンプでは、スピーカー出力そのものをロータリースイッチやプッシュスイッチで切り替えているものがあります。
このスイッチも機械接点です。長年の使用で接点が酸化したり、内部に汚れが溜まったりすると、片CHだけ導通しなくなることがあります。スピーカーAでは片側が出ないが、スピーカーBに切り替えると出る。あるいは、スイッチを何度か操作すると一時的に復帰する。このような場合は、スピーカー切替スイッチの接点不良が疑われます。
パワーアンプ基板の半田割れ
パワーアンプ部は、アンプ内部でも特に熱の影響を受けやすいブロックです。ファイナルトランジスタ、ドライバートランジスタ、エミッタ抵抗、定電圧回路まわりなど、発熱する部品が多く配置されています。そのため、長年の熱膨張と収縮の繰り返しによって、基板の半田にクラックが発生しやすくなります。
半田割れは、単に片CHが出ないだけでなく、音途切れ、ノイズ、歪み、プロテクション動作、最悪の場合はファイナルトランジスタの破損につながることもあります。特にファイナルトランジスタ周辺や、大型抵抗、コネクター、ジャンパー線、ピン端子まわりは、物理的なストレスや熱の影響を受けやすい箇所です。
数十年経過したアンプでは、見た目には大きな異常がなくても、半田の状態がかなり悪くなっていることがあります。そのため、メンテナンスでは古い半田を吸い取り、必要箇所を再半田する処置が重要になります。単に「怪しいところだけ半田を足す」のではなく、劣化した半田を一度除去し、端子やランドの状態を確認したうえで再半田することが、長期的には安心です。
プリアンプ部で起こりやすい原因
POWER AMP INで両CHとも正常に鳴る場合、パワーアンプ部はおおむね正常と判断できます。この場合は、プリアンプ部側のどこかで信号が途切れている可能性が高くなります。
プリアンプ部には、入力切替、トーンコントロール、ラウドネス、フィルター、MODE切替、バランス調整、メインボリュームなど、多くの機能ブロックがあります。信号は、RCA入力端子からセレクターを通り、各種スイッチやボリューム、増幅回路を経由して、最終的にパワーアンプ部へ送られます。その経路上のどこか一箇所で接触不良や部品不良が起きるだけで、片CH出ずは発生します。
入力端子、RCAジャックまわりの半田割れ
基板実装型のRCA端子を採用しているアンプでは、入力端子まわりの半田割れがよくあります。RCAケーブルは抜き差しの際に端子へ力がかかります。その力が基板の半田部分へ直接伝わる構造の場合、長年の使用でRCA端子の足元にクラックが入ります。
この場合、入力端子を少し動かすと音が出たり消えたりすることがあります。また、特定の入力だけ片CHが出ない場合は、その入力端子や入力基板周辺の不良が疑われます。CD入力では左が出ないが、AUX入力では正常。TUNER入力では問題ないが、PHONO入力だけ片側が出ない。こうした場合は、パワーアンプやメインボリュームよりも、入力端子や入力セレクターまわりの不良が疑われます。
入力セレクターの接点不良
ヴィンテージアンプの入力セレクターには、ロータリースイッチやスライドスイッチが多く使われています。これらのスイッチは、信号のL/Rをそれぞれ独立した接点で切り替えています。片側の接点だけ酸化や汚れで導通不良を起こすと、片CHだけ音が出なくなります。
セレクターを少し動かすと音が出る。入力を何度か切り替えると一時的に復帰する。特定のポジションだけ片側が出ない。こうした症状は、セレクター接点の劣化でよく見られます。
特に古いアンプでは、TAPE MONITOR、ADAPTOR、SUBSONIC FILTER、HIGH FILTER、LOUDNESSなど、信号経路上に多数のスイッチが入っている機種もあります。どれか一つのスイッチ接点が悪くなるだけで、片CH出ずや音途切れが発生します。
MODEスイッチによる切り分け
昔のアンプには、STEREO/MONO、L/R、L+Rなどを切り替えるMODEスイッチが搭載されている機種が多くあります。このMODEスイッチは、片CH出ずの切り分けに役立つことがあります。
たとえば、STEREOでは左CHが出ないが、MONOにすると両方のスピーカーから音が出る場合、少なくともMODEスイッチ以降、またはL+Rミックス後の回路は動作している可能性があります。逆に、MONOにしても片側が出ない場合は、MODEスイッチ以降のバランスボリューム、メインボリューム、プリアンプ出力段、あるいはパワーアンプ部以降の不具合が疑われます。
このように、MODEスイッチは単なる機能スイッチではなく、信号経路のどこまでが生きているかを判断する手がかりになります。
メインボリューム、バランスボリュームの不良
メインボリュームやバランスボリュームの接点不良も、片CH出ずの原因になります。ボリュームはL/Rの2連構造になっていることが多く、片側の摺動接点だけが劣化すると、片CHだけ音が小さい、出ない、ガリ音が出るといった症状になります。
バランスボリュームの場合も同様です。センター位置にしているつもりでも、内部の接点が劣化していると、片側だけ信号が通らなくなることがあります。ボリュームを少し動かすと音が出る。特定の音量位置で片側だけ消える。バランスを動かすと一時的に復帰する。こうした場合は、ボリューム内部の接点劣化や抵抗体の摩耗が疑われます。
接点洗浄で一時的に改善することもありますが、抵抗体そのものが摩耗している場合や、内部構造が劣化している場合は、洗浄だけでは根本的な改善にならないこともあります。
半田不良はあらゆる症状の原因になる
片CH出ずの原因として、半田不良は非常に重要です。ヴィンテージアンプでは、発熱部品の周辺だけでなく、入力端子、スイッチ基板、ボリューム基板、コネクター部、ワイヤーラッピング端子など、さまざまな箇所で半田割れが起こります。
半田割れは、完全に断線していれば分かりやすいのですが、実際には「触ると出る」「温まると出ない」「振動で変わる」といった不安定な症状になりやすいのが厄介です。電源投入直後は正常でも、時間が経つと片側が消える。本体を軽く叩くと音が出る。スイッチ操作やボリューム操作をきっかけに症状が変わる。こうした場合、接点不良だけでなく、基板上の半田クラックも疑う必要があります。
特に、パワーアンプ部の半田不良は注意が必要です。信号が途切れるだけならまだしも、バイアス回路やドライバー段、出力段周辺の接触不良が進行すると、異常発振や過電流、DC漏れなどにつながる場合があります。最悪の場合、ファイナルトランジスタやスピーカーにダメージを与える可能性もあります。
片CH出ずを放置しないほうがよい理由
片CHから音が出ない症状は、接点不良のように見えることも多くあります。実際、スイッチを何度か動かすと復帰したり、音量を上げると鳴り出したりすることもあります。しかし、これは「直った」のではなく、一時的に導通が戻っているだけのケースが多くあります。
リレー接点、スイッチ接点、ボリューム、半田クラックなどは、いずれも経年劣化が進行する部位です。一度症状が出始めた場合、自然に安定した状態へ戻ることはあまり期待できません。
特にパワーアンプ部の半田不良や出力段周辺の不具合は、放置すると故障範囲が広がる可能性があります。最初は「片側がたまに出ない」程度だったものが、最終的にはプロテクションが解除されない、ヒューズが飛ぶ、出力トランジスタが破損する、といった重い故障につながることもあります。
適切な対処策
片CHから音が出ない症状では、原因箇所を信号経路に沿って特定し、その原因に応じた処置を行うことが重要です。一時的に音が戻る場合でも、接点や半田、リレーなどの劣化が進行しているケースが多く、症状が出ている箇所だけでなく、関連する周辺部まで確認する必要があります。
RCA端子や基板端子部、発熱部品周辺などに半田割れが見られる場合は、劣化した半田をそのまま上から盛るのではなく、古い半田をきれいに吸い取り、ランドや端子の状態を確認したうえで再半田を行います。特にパワーアンプ基板では、ファイナルトランジスタ、ドライバートランジスタ、大型抵抗、コネクター、ジャンパー線まわりなどに熱や振動の影響が出やすいため、慎重な確認が必要です。
入力セレクター、MODEスイッチ、TAPE MONITORスイッチ、スピーカーA/B切替スイッチなどの機械接点に不良がある場合は、接点の状態を確認し、適切な洗浄処理を行います。単に接点復活剤を吹き付けるだけでは、汚れや酸化膜が残ったり、内部に薬剤が過剰に残ったりすることがあります。症状や構造に応じて、接点部へ確実に処置が届くように作業することが大切です。
メインボリュームやバランスボリュームに接触不良がある場合も、接点の洗浄や内部状態の確認を行います。ボリュームはL/Rの2連構造になっていることが多く、片側の摺動接点だけが劣化すると、片CHだけ音が出ない、音が小さい、ガリ音が出るといった症状につながります。内部の汚れや酸化による不良であれば洗浄で改善する場合がありますが、抵抗体の摩耗や破損がある場合は、部品交換が必要になることもあります。
出力リレーの接点不良が原因の場合は、リレーの状態を確認し、必要に応じて交換を行います。リレー接点は、長年の使用により酸化や硫化、摩耗が進み、接点抵抗が増えることで片CH出ずや音途切れを引き起こします。「音量を上げると突然音が出る」という症状は、出力リレーの接点不良でよく見られる現象です。洗浄で対応できる場合もありますが、接点の劣化が進んでいる場合は交換が望ましい処置となります。
部品不良が確認された場合は、回路上の役割や動作条件を確認したうえで、できる限りオリジナルの設計思想を尊重した部品選定を行います。単に同じ数値の部品へ置き換えるのではなく、耐圧、容量、許容損失、温度特性、リード形状、音声信号経路上での役割などを踏まえて選定することが重要です。ヴィンテージ機器では、部品そのものの性能だけでなく、当時の回路設計や音づくりとのバランスも大切になります。
また、スイッチやボリュームなど、部品によっては交換部品が入手できないこともあります。その場合は、分解洗浄や接点修正などにより、可能な限り既存部品を活かして改善を図ることもあります。特に専用形状のロータリースイッチや特殊なボリュームは、安易に代替品へ交換すると操作感や特性が変わってしまう場合があるため、状態を見極めたうえで処置を判断します。
片CH出ずの修理では、原因箇所だけを一時的に復旧させるのではなく、入力端子、セレクター、各種スイッチ、ボリューム、プリアンプ部、パワーアンプ部、出力リレー、スピーカー端子まで、信号経路全体の状態を確認することが大切です。症状の出ている箇所と同じように劣化が進んでいる箇所が周辺にもある場合、そこを見落とすと、修理後に別の箇所で音途切れや片CH出ずが再発する可能性があります。
こんな症状が出る場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、機器内部の接点不良、半田割れ、出力リレーの接点劣化、ボリューム不良、コネクター不良、部品劣化などが発生している可能性があります。
・左右どちらか一方のスピーカーから音が出ない
・片側だけ音が出たり出なかったりする
・しばらくすると片側の音が戻る
・電源投入直後は正常だが、温まると片側だけ音が途切れる
・音量を上げると、突然片側の音が出る
・ボリュームやバランスを触ると片側の音が戻る
・入力切替やスピーカー切替で音が不安定になる
・MODEスイッチやTAPE MONITORスイッチを触ると症状が変わる
・特定の入力だけ片側の音が出ない
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
・古いアンプを使っていると断続的に片側の音が出なくなる
片CHから音が出ない症状は、放置すると症状が悪化したり、別の部品に負担がかかったりする場合があります。特にパワーアンプ部の半田不良や出力段周辺の不具合は、プロテクション動作、ヒューズ切れ、ファイナルトランジスタの破損など、より大きな故障につながる可能性があります。
また、接点復活剤などの応急処置によって、一時的に症状が改善したように見えても、かえって原因の特定や修理が難しくなることもあります。大切なヴィンテージオーディオを安心して使い続けるためにも、症状が繰り返し出る場合は、専門的な点検をおすすめします。
点検・修理のご相談
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。片側だけ音が出ない、しばらくすると音が戻る、ボリュームやスイッチを触ると片側の音が復帰するといった症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
オーディオの症状別ガイド
第2回:音途切れ
音が出たり出なかったりする原因と対策
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2026年7月
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、音楽を聴いている途中で突然音が途切れ、しばらくするとまた音が出始めることがあります。
音途切れは、常に同じタイミングで発生するとは限りません。電源を入れた直後は正常でも、時間が経ってから症状が出ることもあれば、操作や振動をきっかけに一時的に音が戻ることもあります。そのため、原因の切り分けが難しい不具合のひとつです。
また、複数のオーディオ機器を組み合わせて使用している場合、アンプ、プレーヤー、ケーブル、スピーカー、ネットワーク音源など、どこに原因があるのか分かりにくいことがあります。
特に近年では、ネットワークプレーヤーやストリーミング再生など、再生ソース側の問題で音が途切れるケースもあります。この場合、アンプやオーディオ機器本体は正常で、通信環境や再生アプリ、ネットワーク機器側に原因があることもあります。今回は、そうした外部要因ではなく、アンプなどのオーディオ機器本体側で発生する「音途切れ」について解説します。
音途切れとはどのような症状か
音途切れとは、再生中の音が断続的に途切れたり、突然出なくなったりする症状です。代表的な症状としては、以下のようなものがあります。
・音楽を聴いている途中で突然音が途切れる
・しばらくするとまた音が出る
・片側のスピーカーだけ音が出たり出なかったりする
・電源投入直後は正常だが、温まると音が途切れる
・ボリュームやスイッチを触ると一時的に音が戻る
・入力切替やスピーカー切替の操作で音が不安定になる
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
完全に音が出ない故障と異なり、音途切れは症状が出たり出なかったりする点が厄介です。修理の現場でも、症状が再現しない場合は原因の特定に時間がかかることがあります。そのため、いつ、どの入力で、左右どちらに、どのくらいの頻度で発生するかを確認することが重要になります。
まず確認したい切り分けポイント
音途切れが発生した場合、すぐにアンプやプレーヤー本体の故障と判断する前に、周辺環境も含めて確認することが大切です。
たとえば、ネットワーク音源を使用している場合、通信状態や再生アプリ、ルーターなどの影響で音が途切れることがあります。また、RCAケーブル、スピーカーケーブル、入力端子、スピーカー端子の接触状態によっても、音途切れのような症状が出る場合があります。
切り分けの際は、以下のような確認が有効です。
・別の入力でも同じ症状が出るか
・左右どちらか一方だけに症状が出るか
・別のケーブルに替えても症状が出るか
・別の再生機器でも同じ症状が出るか
・ヘッドホン出力でも症状が出るか
・電源投入直後と時間経過後で症状が変わるか
・ボリュームやスイッチ操作で症状に変化があるか
こうした確認によって、機器本体側の不具合か、周辺機器や再生環境によるものかをある程度絞り込むことができます。ここからは、アンプなどのオーディオ機器内部で音途切れが発生する代表的な原因について解説します。
音途切れが発生する主な原因
アンプを例にすると、音途切れの代表的な原因として、主に以下のようなものが挙げられます。
・基板の半田割れ
・スイッチやリレーなどの接点不良
・部品不具合による不安定な回路動作
・コネクターや配線部の接触不良
これらはいずれも、音声信号や電源供給が不安定になることで、音が出たり途切れたりする原因になります。特にヴィンテージアンプや古いオーディオ機器では、長年の熱、振動、酸化、部品劣化が重なり、複数の原因が同時に発生していることもあります。
基板の半田割れによる音途切れ
音途切れの原因としてよく見られるもののひとつが、基板の半田割れです。半田は、部品を基板に固定し、電気的に接続するための重要な部分です。しかし、長年の使用による熱の影響、振動、部品自体の重さによるストレスなどによって、半田部分には少しずつ金属疲労が蓄積していきます。その結果、半田に細かな割れが生じ、接続が不安定になることがあります。
半田割れが厄介なのは、完全に断線しているとは限らない点です。割れ始めの過渡期では、温度変化による金属の伸縮によって、つながっている時、離れている時、離れかけて抵抗値を持っている時が不規則に発生します。これにより、音が突然途切れたり、時間が経つと戻ったり、振動を与えると症状が変化したりします。
また、半田割れは目視で確認できる場合もありますが、微細なクラックの場合は一見して分かりにくいこともあります。そのため、症状の出方や回路上の位置を見ながら、疑わしい箇所を確認していく必要があります。
スイッチやリレーの接点不良による音途切れ
音途切れの原因として、スイッチやリレーなどの接点不良も多く見られます。アンプ内部には、入力切替スイッチ、スピーカー切替スイッチ、ミューティング回路、出力リレーなど、音声信号が通過する接点が複数あります。
これらの接点が酸化や硫化、汚れの付着によって導通不良を起こすと、接点抵抗値が上昇したり、一時的に接触しなくなったりすることで、音声信号が不安定になります。その結果、音が途切れたり、片側だけ音が出なくなったりすることがあります。
また、前回の「ガリ」でも解説したように、ボリュームやバランス調整部の接点不良が、音途切れとして現れる場合もあります。
特に注意が必要なのは、接点復活剤の影響です。経年による酸化や硫化だけでなく、過去に使用された接点復活剤が内部に残り、汚れや摩耗粉と混ざって、接点表面に膜のようなものを作ってしまうことがあります。このような状態になると、接触がさらに不安定になり、かえって音途切れの原因になる場合があります。
部品不具合による不安定な回路動作
音途切れは、半田割れや接点不良だけでなく、電子部品の劣化や不具合によって発生することもあります。代表的なものとしては、以下のような要因があります。
・電解コンデンサの劣化
・ヒューズ抵抗の劣化
・トランジスタやICなど半導体部品の不具合
・半導体の足に付着するマイグレーションやウィスカ
・抵抗、コンデンサ、半導体などの受動・能動素子の不安定化
電解コンデンサは、経年によって容量抜けや内部抵抗の上昇が起こることがあります。これにより、電源回路や信号回路が不安定になり、音途切れの原因になる場合があります。
また、1980年代前後のオーディオ機器では、ヒューズ抵抗が使われている機種も多くあります。ヒューズ抵抗は保護目的で使用される部品ですが、経年によって抵抗値が変化し、回路動作に影響を与えることがあります。
さらに、トランジスタやICなどの半導体部品では、足周辺にマイグレーションやウィスカが発生し、異常な導通を起こすことがあります。こうした異常伝導により、回路が突発的に不安定になり、音途切れやノイズ、片チャンネルの不安定動作につながる場合があります。これらの不具合は、見た目だけでは判断できないことも多く、測定や動作確認を通じて原因を絞り込む必要があります。
コネクターや配線部の接触不良
コネクターや配線部の不良も、音途切れの原因になります。オーディオ機器内部には、基板同士をつなぐコネクターや、スイッチ、ボリューム、端子、電源部をつなぐ配線が多く使われています。これらの接続部では、以下のような不具合が起こることがあります。
・修理やメンテナンスの繰り返しによるコネクターピンの接触圧低下
・内部の発熱や振動による金属ピンの接触圧低下
・金属ピンと線材の圧着不良
・ピン表面の酸化や汚れ
・コネクターや端子の変形
・ケーブル被覆の劣化による絶縁不良
コネクターは、一見しっかり差し込まれているように見えても、内部のピン圧が弱くなっていると、わずかな振動や温度変化で接触が不安定になることがあります。また、コネクターケーブルの被覆が加水分解などによって劣化し、隣接する線材との絶縁不良を起こす場合もあります。このような状態になると、接続部で接点抵抗を持ったり、断続的に接触が離れたりして、音途切れが発生します。
適切な音途切れ対処策
音途切れは、症状だけを見ると同じように見えても、原因はひとつとは限りません。半田割れ、接点不良、部品劣化、コネクター不良など、複数の要因が重なって発生していることもあります。そのため、音が途切れるからといって、安易に接点復活剤を使用したり、特定の部品だけを交換したりするのはおすすめできません。
大切なのは、どの条件で症状が出るのかを確認し、信号の流れに沿って原因を切り分けていくことです。当サービスでは、症状の再現確認、各入力・各出力での動作確認、スイッチやリレーの接点確認、基板の半田状態、部品の測定、コネクターや配線部の確認などを行い、原因に応じた対処を検討します。
半田割れが確認される場合は、劣化した半田を必要に応じて吸い取り、適切に再半田を行います。一度劣化した半田は、単に上から新しい半田を足すだけでは十分な処置にならない場合があります。古い半田を残したまま新しい半田を混合すると、金属組成や接合状態の面で品質が不安定になる可能性があるためです。
接点不良が見られる場合は、接点表面の状態、汚れの種類、摩耗の進行具合を確認したうえで、適切な処置を検討します。接点が構成された部品を状態に応じて分解し、酸化・硫化・汚れの除去を行います。接点復活剤の影響が強く残っている場合は、必要に応じて洗浄・研磨を行い、接点表面を整えます。
部品劣化が原因と考えられる場合は、測定や動作確認を行い、必要に応じて部品交換を検討します。電解コンデンサ、トランジスタ、ICなどは、単なる交換部品ではなく、音決め要素にも関わる重要なパーツです。そのため、交換が必要な場合でも、数値だけで判断するのではなく、回路上の役割やオリジナルの設計意図を踏まえ、慎重に部品選定を行います。
コネクターや配線部に不具合がある場合は、ピンの接触圧、端子表面の状態、線材の圧着状態、被覆の劣化などを確認します。そのうえで、コネクターピンの清掃または交換、ピン圧の再調整、端子の交換、ケーブルの入れ替えなど、原因の状態に合わせて処置を行います。
ヴィンテージオーディオでは、単に音が出る状態に戻すだけでなく、その機器本来の安定した動作を取り戻すことが重要です。音途切れの対処では、症状の原因を一つずつ確認し、必要な箇所に必要な処置を行うことが大切だと考えています。
こんな症状がある場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、機器内部の接点不良、半田割れ、部品劣化、コネクター不良などが発生している可能性があります。
・音楽を聴いている途中で音が途切れる
・片側だけ音が出たり出なかったりする
・しばらくすると音が戻る
・電源投入直後は正常だが、温まると音が途切れる
・ボリュームやスイッチを触ると音が戻る
・入力切替やスピーカー切替で音が不安定になる
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
・ネットワーク音源ではないのに再生中の音が途切れる
・古いアンプを使っていると断続的に音が出なくなる
音途切れは、放置すると症状が悪化したり、別の部品に負担がかかったりする場合があります。また、接点復活剤などの応急処置によって、かえって原因の特定や修理が難しくなることもあります。大切なヴィンテージオーディオを安心して使い続けるためにも、症状が繰り返し出る場合は、専門的な点検をおすすめします。
点検・修理のご相談
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。音が途切れる、片側だけ音が出ない、しばらくすると音が戻るといった症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
コラム
メンテナンス
ボリューム
ヴィンテージオーディオ
オーディオの症状別ガイド
第1回:ガリ
ボリュームを回すと出るガリガリ音の原因と対策
Crafted Audio Services
|
2026年6月
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、ボリュームを回した時に「ガリガリ」「バサバサ」といったノイズが出ることがあります。この症状は、一般的に「ガリ」と呼ばれています。
ボリュームのガリは、主にアナログボリューム部品を持つ製品で起こる経年劣化症状のひとつです。アンプの音量ボリュームだけでなく、CDプレーヤーやカセットデッキなどの再生機器側にあるLINE OUT出力調整、REC VOL調整、バランス調整などでも発生することがあります。
オーディオ機器において、ボリュームは単なる操作部品ではありません。音声信号が通過する重要な部品であり、最適な音量で再生・録音するために、回路上で重要な役割を担っています。そのため、良い状態で音楽を聴く、録るためには、ボリューム部品の劣化や接触不良はできる限り解消しておきたい部分です。
「オーディオの症状別ガイド」では、オーディオ機器に起こりやすい不具合を症状ごとに取り上げ、その原因や注意点、修理・メンテナンスで大切になる考え方を解説していきます。第1回は、ヴィンテージアンプでもご相談の多い「ガリ」についてです。
ガリとはどのような症状か
ガリは、主に音量調整をしている時に発生します。代表的な症状としては、ボリュームを回すと「ガリガリ」と音がする、音量調整時に「バサバサ」「バリバリ」とノイズが出る、片側の音が一瞬途切れる、特定の位置で音が不安定になる、小音量時に左右の音量差が気になる——といったものがあります。
意外に思われるかもしれませんが、無音状態でボリュームを回しても、ガリが分かりにくい場合があります。修理作業など専門的な確認では、音楽ソースではなく基準信号などを入力し、ボリュームを動かした際のノイズや信号の乱れを確認することがあります。音楽再生中には気づきにくい接触不良も、こうした確認によって把握できる場合があります。
ガリは、アンプのメインボリュームだけに発生するものではありません。バランス調整、入力切替、REC VOL、LINE OUTの出力調整など、アナログ接点を持つ部分であれば同様の症状が出る可能性があります。
ボリュームのガリが発生する主な原因
ボリュームのガリは、内部の接点不良によって発生することが多くあります。ボリューム内部には、音声信号を可変させるための接点があります。よく知られているのは、抵抗体の上を動く摺動子、いわゆる回転ブラシ部分の接点不良です。
しかし、ガリの原因はそれだけではありません。ボリューム内部には、入力側の信号を摺動子へ伝えるための金属接点もあります。つまり、主に以下のような接点部分が関係しています。
・抵抗体の上を動く摺動子の接点
・入力信号を摺動子へ伝える金属接点
・回転軸周辺の接触部
長年の使用により、これらの接点部分には摩耗粉、汚れ、酸化、硫化、古くなったグリスなどが堆積していきます。特に、ボリュームを回転させることで発生するカーボン抵抗体や金属面の摩耗粉が接点に入り込むと、導通を妨げる原因になります。その結果、ボリュームを回した時に接触が断続的になり、「ガリガリ」というノイズとして聞こえるようになります。
また、回転軸周辺のグリスが経年で変質し、汚れや摩耗粉と混ざることで、簡単には落としにくい状態になっているケースもあります。しばらく使用していなかった機器では、接点表面の酸化やグリスの劣化によって、久しぶりに動かした時にガリが出ることもあります。
ボリュームを何度も回すと直る?
ガリが出た時に、ボリュームを何度も回して馴染ませるという対処を見かけることがあります。確かに、一時的にノイズが軽くなる場合はあります。これは、接点上にあった汚れや摩耗粉が一時的に移動し、接触状態が変わるためです。
ただし、これは根本的な改善ではありません。むしろ、必要以上に何度も回すことで、カーボン抵抗体や金属接点をさらに摩耗させてしまう可能性があります。結果として、新たな摩耗粉が発生し、ガリの原因となる汚れを増やしてしまうこともあります。
「回したら少し良くなった」という状態でも、内部の汚れや接点不良が解消されたわけではありません。症状が繰り返し出る場合は、応急的な対処ではなく、ボリューム内部の状態を確認することが大切です。
接点復活剤の使用には注意が必要です
ガリが出た時に、市販の接点復活剤を吹き付ける対処を見かけることがあります。しかし、当サービスではヴィンテージアンプや古いオーディオ機器に対して、安易な接点復活剤の使用は基本的に推奨していません。
本来、ボリューム内部の汚れや摩耗粉を取り除くためには、異物を十分に洗い流し、接点部分を適切な状態に戻す必要があります。しかし、ボリュームを機器に取り付けたままの状態で、それを確実に行うことは簡単ではありません。
接点復活剤を吹き込むことで、一時的にノイズが減ったように感じる場合があります。しかし、実際には内部に残った汚れや古いグリス、摩耗粉が薬剤と混ざり、かえって固着してしまうことがあります。その結果、より大きな汚れの塊となり、再び接触不良を起こす原因になる場合もあります。
また、接点復活剤にはさまざまな成分が含まれているため、基板や周辺部品に付着した場合、別の不具合につながる可能性もあります。特にヴィンテージ機器では、オリジナル部品の入手が難しいことも多いため、安易な処置で状態を悪化させてしまうと、修理の選択肢が限られてしまうことがあります。大切な機器ほど、症状の原因を確認したうえで、慎重に対応することが重要です。
適切なガリ対処策
一般的に、ガリが発生したボリュームは交換するのが分かりやすい対処方法です。新品のボリュームに交換できれば、部品としての性能は回復しやすくなります。しかし、ヴィンテージオーディオの場合は簡単ではありません。
古い機器では、当時と同じオリジナル部品がすでに入手困難になっていることが多くあります。特に海外製のボリュームや専用品の場合、同等部品の確保が難しいケースも少なくありません。また、サイズや抵抗値が近い部品が見つかったとしても、単純に交換すればよいとは限りません。
ボリュームは、音量を調整するだけの部品ではなく、音量変化の仕方、左右差、回転トルク、操作感、音の印象にも関わる重要な部品です。当時のオーディオメーカーは、機種ごとの設計思想や音づくりに合わせて、ボリューム部品を選定していました。
そのため、当サービスでは可能な限り、当時そのボリュームが採用された意図や狙いを尊重します。交換ありきではなく、オリジナル部品の状態を確認し、分解洗浄や調整によって改善できるかを見極めます。
ボリュームの構造上可能な場合は分解し、内部にたまった汚れ、摩耗粉、古いグリス、接点の酸化や硫化を確認します。特に回転軸近くの金属接点では、回転軸グリスが浸透し、汚れや摩耗粉と混ざって簡単には落とせない状態になっているケースもあります。摺動子や金属接点については、状態に応じて特殊溶剤や超音波洗浄などを用い、導通を妨げる異物や酸化・硫化の除去を行います。
洗浄後は、単に組み戻して終わりではありません。ボリューム単体での動作確認や左右差の確認を行い、必要に応じて調整します。また、ヴィンテージ機器では、ボリュームを回した時の重さや滑らかさも大切な要素です。価値ある機器ほど、音が出ることだけでなく、操作した時の質感まで含めて整えることが重要だと考えています。
最終的な仕上げでは、回転軸部に適切なトルクグリスを塗布し、回した時の感触も確認しながら仕上げていきます。当サービスでは、ガリを抑えることだけを目的とするのではなく、その機器らしい操作感や使い心地をできる限り損なわない対処を目指しています。
こんな症状がある場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、ボリュームや接点部分に不具合が発生している可能性があります。
・アンプのボリュームを回すとガリガリ音が出る
・音量調整時にバサバサ、バリバリとノイズが入る
・片側の音が一瞬途切れる
・小音量時に左右差がある
・特定のボリューム位置で音が不安定になる
・バランスつまみや入力切替を動かすとノイズが出る
・REC VOLやLINE OUT調整時にノイズが出る
・接点復活剤を使っても症状が再発する
・古いアンプを久しぶりに使ったらガリが出た
ボリュームのガリは、初期段階であれば分解洗浄や調整で改善できる場合があります。一方で、抵抗体の摩耗や部品破損が進んでいる場合は、交換や代替部品の検討が必要になることもあります。大切なヴィンテージオーディオを長く安心して使うためにも、自己判断で処置を重ねる前に、専門的な点検をおすすめします。
点検・修理のご相談
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。ボリュームを回した時のガリガリ音や、音量調整時のノイズでお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
コンディションチェックサービスのご案内
Crafted Audio Servicesでは、オーディオ機器の現在の状態を確認するための「コンディションチェックサービス」をご用意しています。
ヴィンテージオーディオは、問題なく音が出ているように見えても、内部では部品の劣化や接点不良、動作の不安定化が進んでいる場合があります。
「今のところ音は出ているけれど、このまま使い続けて大丈夫だろうか」
「中古で購入した機器の状態を、一度確認しておきたい」
「修理が必要なのか、まずは状態を見てほしい」
そのような場合にご利用いただけるのが、コンディションチェックサービスです。
コンディションチェックとは
コンディションチェックは、お預かりした機器の現在の状態を、専門スタッフの視点と測定機器を用いて確認する点検サービスです。
修理を前提とした詳細診断ではなく、基本動作や各部の状態確認、必要に応じた簡易測定などを通じて、現時点でのコンディションを確認します。
機器の状態を把握することで、すぐに修理が必要な状態なのか、当面は様子を見ながら使用できる状態なのか、あるいは将来的な整備を検討したほうがよい状態なのかを判断する目安になります。
主な確認内容
機器の種類や状態に応じて、主に以下のような内容を確認します。
・外観・端子部の確認
・電源投入・基本動作確認
・測定機による基本動作確認
・各スイッチ・ボリューム類の確認
・主なスペック測定
・音出し確認
・ノイズの確認
・動作安定性の確認
ヴィンテージ機器の場合、経年による部品劣化や接点不良、半田クラック、ゴム部品の劣化などが確認されることもあります。
修理診断との違い
コンディションチェックは、あくまで現在の状態を確認するための点検サービスです。そのため、不具合原因を特定するための分解診断や、交換部品の選定、修理範囲の検討、正式なお見積り作成までは含まれません。
コンディションチェックの結果、修理をご希望の場合は「修理診断受付」へ移行します。修理診断受付では、不具合原因の詳細確認、交換部品の選定、修理方針の検討、正式なお見積り作成を行います。
ヴィンテージオーディオでは、純正部品がすでに供給終了となっている場合も多く、修理プランやお見積りの作成には、代替部品の選定や修理範囲の判断が必要になります。そのため、現在の状態を確認するコンディションチェックと、正式なお見積りを伴う修理診断受付は、別工程としてご案内しています。
料金
コンディションチェック:16,500円(税込)〜
コンディションチェック後に修理診断をご希望の場合は、修理着手基本料金との差額として、別途16,500円(税込)をお預かりします。
※機器の種類や状態によって、確認内容や費用が異なる場合があります。詳しくはお問い合わせ時にご案内いたします。
まずは現在の状態を知ることから
ヴィンテージオーディオは、一台ごとに使用環境や経年状態が異なります。長く安心して使い続けるためには、現在の状態を把握し、必要な整備を適切なタイミングで行うことが大切です。
「修理が必要かどうか分からない」
「今の状態を一度確認しておきたい」
「良い状態で使い続けたい」
そのような方は、ぜひコンディションチェックサービスをご利用ください。
ご希望の方は、お問い合わせフォームより、機種名・現在の状態・気になる症状などをお知らせください。
Crafted Notes / INFO
6月4日発売『ステレオ時代neo Vol.13』に
Crafted Audio Servicesが掲載されました
このたび、6月4日発売の『ステレオ時代neo Vol.13』に、Crafted Audio Servicesをご紹介いただきました。
記事のテーマは、
「ヴィンテージオーディオは壊れる。しかし、その価値は失われない。」
長く使われてきたオーディオ機器には、当時の設計思想、技術者の意図、そして使い手の時間が刻まれています。
Crafted Audio Servicesでは、そうした機器を単なる中古品としてではなく、音楽を楽しむ文化を支えてきた大切な存在として捉え、一台一台の状態に合わせた修理・メンテナンスを行っています。
誌面でご紹介いただいた内容
今回の記事では、修理作業の様子や測定・エージングの工程、部品選定やはんだへの考え方、工作室での治具づくりなど、普段なかなかお見せする機会の少ない現場もご紹介いただきました。
誌面では、修理ブース、工作室、チェック工程、エージングの流れなども紹介されています。
取材当日は、修理現場や試聴スペースを実際にご覧いただきながら、私たちがどのような考え方やこだわりを持ち、オーディオと向き合っているのかをお話ししています。
巻頭記事:KENWOOD Lシリーズ試聴会
また、巻頭記事では、運営会社ティーエス・プロ厚木事業所で行われたKENWOOD Lシリーズの試聴会の様子も掲載されています。試聴会の詳細は、Crafted Notesでもレポートしていますので、あわせてご覧ください。
▶ KENWOOD Lシリーズ試聴会レポート(Crafted Notes)
今回の記事を通じて、Crafted Audio Servicesの取り組みや、私たちが大切にしている修理への姿勢を少しでも感じていただければ嬉しく思います。
『ステレオ時代neo Vol.13』には、ほかにも読み応えのある記事がたくさん掲載されています。ヴィンテージオーディオに興味のある方はもちろん、音楽の楽しみ方を広げたい方にもおすすめの一冊です。ぜひお手にとってご覧ください。
『ステレオ時代neo Vol.13』
2026年6月4日発売
詳細はこちら
KENWOOD L-01A — 不動品からフルメンテでLシリーズが始まった当時の音を呼び戻す
電源入るもボリューム調整不可、小音のみで全体的に出音NG、ランプ切れなど経年不具合解消から、基板クリーニングやシャシーと含めたフルメンテを実施。
Crafted Audio Services|WORKS
Basic Info — 基本情報
| メーカー | KENWOOD(ケンウッド) |
| モデル | L-01A |
| 種別 | プリメインアンプ |
| 発売年 | 1979年 |
Overview — 概要
KENWOOD L-01Aは、1979年に発売されたケンウッドのLシリーズのプリメインアンプで、Lシリーズの口火を切った記念すべきモデル。電源トランス部を別筐体とした当時としては大変珍しい構成で、そのスタイルは後継の超弩級アンプL-02Aのベースとなるものでした。
マグネティックディストーションと呼ばれる磁性体・磁束となるトランスを分離し、またアンプ筐体含めた構成部品は徹底的な非磁性体化を図った構造としています。
電源トランスは合計537.6VA(L-02Aは444VA)という超強力な大容量トランスを搭載し、それぞれのトランスは左右チャンネルごとに使用されセパレーション性を良くしていました。そのトランスが内蔵されたパワーサプライユニットは、トランスの上にスチールカバーを被せ、さらに非磁性体の筐体で覆うしっかりした作りこみでした。
内部で使用されているブロックコンデンサ含めた電解コンデンサは、当時ELNAに特別に製造させたもので、「TRIO」ロゴが印字されています。当時のOBからは、TRIO社内にELNA技術スタッフが駐在し、TRIOの開発・設計部門とコンデンサ開発も連動して行われていたもので、最終的な音決めの重要な要素にも関わっていたとのことです。
いまでこそLシリーズと言えばL-02Aの存在が大きいですが、その布石を打ったL-01Aも大変こだわった造りから、普通のプリメインアンプとは言えない、マニア心をくすぐるものでした。
Diagnosis — 症状・診断
「音量変化が出来ない」「ボリュームが回らない」「音が小さいし歪んでいる」「ランプが切れている」
ボリュームノブとボリュームを連結するロッドの軸受けがグリス固着し完全に回らない状況に。またメインボリューム及びバランスボリュームにもガリがありました。
出力リレーの劣化に留まらず、各種スイッチ類も切替ノイズ発生。インジケーターランプにおいては、球切れの他、ランプ取り付けベースの熱による溶解などかなりの劣化が見受けられました。
RCAターミナルは、ネジ取り付け部のプラスチック割れに伴い、ネジが締まらずRCAターミナルがグラグラに。
パワーサプライユニットにおいては、底板の変形、電解コンデンサの液漏れが認められました。
Repair Process — 修理工程
01|状態確認・診断
指摘症状の再現確認、図面・回路図調査、劣化部品の特定(静電容量やhfeなど)と対応判断、各部の測定を実施しました。
02|部品選定・調達
製品状態に基づき、適切な交換部品を選定・調達しました。オリジナルの設計意図を尊重しつつ、信頼性の高い現行品を厳選しています。
03|基板作業
フラックス除去、すべての古い半田の吸い取り、再半田、コネクタ研磨清掃と接点保護しています。
基板の洗浄 — 作業前後
04|筐体・外観整備
シャシー分解、一部フレーム部品の再塗装、洗浄、ランプ交換(ランプマウントは互換品を使用)、遮光スポンジ張り替え、ヒートシンク清掃(ディファレンシャルアンプ部のヒートシンクのみ特殊研磨剤でアルミのクスミ除去研磨を実施)、RCA端子清掃、SP端子清掃を実施しました。
パワーサプライユニット部に関しては、ボトムシャーシが重量で変形していたため板金修正しました。DCケーブルピンの研磨清掃も実施しました。
RCA端子の作業前後とネジ割れ部分の筋金入れによる補修、フロントパネル部のリフレッシュ
筐体フレームまでの分解と、一部艶消しブラックでの再塗装
05|部品リフレッシュ・部品交換
主要の半導体部品の交換(初段差動増幅IC、ドライバートランジスタ、ファイナルトランジスタ)は、オリジナル品番、ランクを使用し交換しました。ファイナルトランジスタ部の放熱絶縁グリスの除去及び清掃、絶縁マイカは交換をしました。
その他トランジスタは、長年の異物付着したマイグレーション/ウィスカの除去を一つ一つ丁寧に実施しました。
電解コンデンサについては、オリジナル順守として無用な交換を避けるべく、静電容量/ESRなど電気的特性検査を行い、劣化が認められるものだけを選別部品と交換しました。
オフセット/バイアス調整用のトリマは、高信頼性部品に交換しました。
小信号を扱う各種電磁リレーは、ガス封印型の新品リレーに交換しました。
左上:専用製造された電解コンデンサ/右上:特性検査/左下:特別製造のブロックコンデンサ(内部電解液のドライアップ状況の確認も行う)
左:入力回路および初段増幅回路基板の作業前/右:イコライザー回路基板、入力回路および初段増幅回路基板の作業後
左:パワーアンプ基板の作業前/右:作業後
左上:小信号用電磁リレーの交換/右上:パワーアンプ部基板のリフレッシュ前/左下:パワートランジスタ交換に伴うhfe選別測定/右下:ディファレンシャルアンプ部の作業後
06|ボリューム・スイッチ類のリフレッシュ
メインボリューム及びバランスボリュームは完全分解を行い、ガリの元となる異物除去とクリーニングを実施。摺動子のブラシは、特殊溶剤を用いた超音波洗浄を施し、ブラシ再整列と圧の再調整を実施しました。部品組み上げ後、常用域での左右差吸収調整を施しています。
メインボリュームとノブを連結しているロッドについては、徹底洗浄を行い、その後高級機らしい回転トルクを与えるためトルクグリスにて調整を実施。
スイッチについては、重要切り替えスイッチ部のみ硬質金メッキ部品のため、従来の研磨清掃ではダメージを与えます。適材適所での接点清掃を施しています。
ボリュームシャフトとボリューム分解作業
硬質金メッキを施したスイッチの作業前後
07|テストポイント
調整時に使うテストポイント端子を製作し取り付け実施。
08|回路調整・動作チェック
各部の回路調整をサービスマニュアル要求値に基づき実施。
09|エージング・最終確認
50時間以上の長時間エージングを実施し、動作の安定性を確認。最終的な音出し確認と外装点検を経て完了としました。
左:作業前の内部/右:フルメンテ作業後の内部
Technician’s Comment — 技術者コメント
ケンウッドOBが集結した夜 ── Lシリーズ試聴会レポート
「生み出した側」と「甦らせる側」が、音を通じて再会した日の記録。
Crafted Audio Services|TS-PRO 厚木事業所 オーディオサロン
先日、Crafted Audio Services(CAS)の運営母体である株式会社ティーエス・プロ(TS-PRO)の厚木事業所オーディオサロンにて、ケンウッド(トリオ)Lシリーズの試聴会を開催しました。
集まったのは、かつてケンウッドで製品の企画・設計・品質管理などに携わっていたOBの皆さま、約10名。目の前に並ぶのは、CASが完璧にレストアしたLシリーズのフラッグシップたち。L-01A、L-02A、L-08C/08M——いずれもマニア垂涎の名機ばかりです。
今回の試聴機材
試聴会で鳴らした機材は、すべてCASでフルレストア済みのものです。
アンプ
・L-01A / L-01T(1979年)
・L-08C / L-08M / L-08PS(1980年)
・L-02A / L-02T(1982年)
スピーカー
・LS-100(1979年)
・LS-1000(1981年)
・LS-CX7 soleade(1992年)
プレーヤー / DAC
・KP-1100(1985年)
・DP-900(1984年)
・DPF-7002(1997年)
中でもL-08Cは動作品ですらほぼ見かけない超希少モデル。L-02Aは海外仕向け仕様の個体で、バナナ端子を装備した珍しいバリエーションです。いずれもCASの熟練エンジニアが、純正・オリジナル重視の方針で仕上げています。
名機が鳴った瞬間の、あの表情
試聴が始まると、それまで和やかだった空気が一変しました。
OBの皆さんは、真剣な表情で音に集中し、目をつぶってうなずいたり、ふと笑みをこぼしたり。ご自身が携わった製品が、何十年という時を経てなお、こうして完調の状態で音を奏でている——その事実に、深く感じ入っている様子が伝わってきました。
各々が持ち合った音源を聴き比べる場面では、当時の開発秘話や思い出が次々と飛び出し、会場は熱気に包まれました。圧巻は、当時TRIO/KENWOODが音質決定で実際に使用していた音源を再生し、開発当時さながらの試聴ができたことです。当時のモノづくりでは、市販の音源に頼らず、自ら演奏からレコーディングまで手掛けていたといいます。その音源をLシリーズで鳴らしたとき、現代の製品群にも決して引けを取らない表現力に驚かされました。
「生み出した側」が再会した日
私たちは、日頃思い入れに応えることをモットーとしています。お客さまが大切にしてきた機器を預かり、丁寧にメンテナンスし、もう一度その音を届ける。そこにやりがいを感じてきました。
今回、実際に開発や企画の現場に携わっておられた方々と同じ空間で音を聴いたことで、気づかされたことがあります。
当時のケンウッドが、会社としてどれほどの体力を注ぎ込んでモノ作りをしていたか。オーディオ業界の中でどれほど中心的な存在だったか。そして、そこに関わった一人ひとりの技術者がどれだけの情熱を持っていたか——。
実際にお話を伺い、目の前の機器が鳴る音を共有したとき、その重みは想像以上でした。
ヴィンテージオーディオのメンテナンス・レストアという仕事は、「使う方に喜んでいただく」だけではない。かつてその製品を生み出した方々——開発者、設計者、企画担当者——の思いにも繋がっているということ。
私たちが一台一台と向き合い、丁寧に復活させる仕事には、作り手の魂をも未来へ繋ぐという役割があるのだと、改めて感じました。
今回ご参加いただいたOBの皆さまからは、大変ありがたいことに大きな反響をいただきました。今後さらにこうした交流の輪が広がっていく手応えを感じています。
なお、今回の試聴会にはオーディオ雑誌「ステレオ時代」の取材も入っており、イベントの詳細なレポートは次号に掲載される予定です。機材の技術的な背景やOBの皆さんの経歴、試聴の詳しい模様などは、ぜひそちらでお楽しみください。
名機のL-02A人気に埋もれそうなL-01Aですが、デザインと言い独特の特異性を放つ個性豊かなアンプです。
非磁性体にこだわった製品企画上、筐体や各種部品への非磁性体考慮だけではなく、L-02Aと違った設計アプローチで作られたことが分かります。
例えば、回路を取り巻くグランドパターン。重要回路には半田面だけではなく部品面にもグランドパターンを這わした疑似両面基板、そうでない基板についてはグランドパターンだけでなく互いの干渉を防ぐ意味でも全体的にゆとりを持ったパターン設計がされています。
フォノイコライザー回路については、基板の中央には左右の干渉を防ぐため銅板によるバスバーでセパレート、パワーアンプ回路からSP端子までのグランドパターンも銅板バスバーでコネクションされています。
小信号が通るラウドネス/バランスON-OFF/Rec-Outスイッチには、硬質金メッキ処理端子が有名ですがそのスイッチを覆うカバーもぬかりなくアルミ製で、こちらも非磁性体のこだわりが垣間見れます。
当時の商品企画の方に伺うと、一般的なオーディオ機器では常識の鉄板などによる筐体カバーではないため、外来ノイズや信号干渉に相当労力を注がれたと。
もうこのような個性の強い製品は出ないのではないかと思います。
この時代のL-01Aは、すでに完動品及び状態の良いものがほとんどなく、フルメンテで蘇らせると当時TRIOがどのような想いでこの製品を開発し世に送り出したか良くお分かりいただけるかと思います。
分厚いアクリルパネルで覆われたフロントパネルは、電源を入れるとたちまち電球による優しい光でオペレーション状態を浮かび上がらせてくれます。
貴方の大事なオーディオルームで、少し部屋の照明を落としL-01Aの精悍な佇まいと、奏でる音の良さを体験してみてはいかがでしょうか。