【お客様インタビュー】KENWOOD L-02A ~想い出の機器を再び~
「18歳の時に出会ったL-02Aの衝撃が忘れられず、この歳になってもL-02Aを生き生きと鳴らしたい——そんな想いからメンテナンスをお願いしました。」
過去、合計4台の所有するL-02Aのメンテナンスをご依頼いただいた宮崎県在住のK様。
メンテナンスを終えお手元に戻った4台は、各種動作も安定し見事な鳴りっぷりをしているとK様からご報告をいただきました。
『4号機までいずれも最高の完成度に至ったと感じています。音の輪郭を示しつつも、奥行きや高さ方向に立体的に切れ込んでいく表現力を示してくれています。圧巻のパフォーマンスです。』
このL-02Aへのご依頼の背景や想いについて、実際にK様のご自宅を訪問させていただきました。
【L-02Aとの出会いは?】
小さい頃、父親がよくレコードを聴いていまして、中学生の時にステレオセットを買ってもらったのがオーディオ好きになったきっかけです。当時のセットはNECでしたね。その後A-10が出たのを覚えています。
その後、トリオのスピーカーLS-202をデンオンのアンプで鳴らしていた時にトリオの音作りが良いと思い、そこから益々トリオに興味が沸きました。当時はDCアンプがポピュラーになり始めた頃で、KA-9300が欲しかったのですが高くて買えなかったのを覚えています。以降はサンスイなどを使っていました。
18歳のある日、デパートのオーディオコーナーにL-02AとLS-1000が展示されていて、その時聴いた音が強烈で、それがL-02Aとの最初の出会いです。
LS-1000の低域の引き締まった骨格のある音、それをL-02AのΣドライブで駆動するわけですから悪いはずがないですよね。当時55万円ですから18歳じゃ無理で、これにL-02TとL-07Dを加えると100万円を超える……夢また夢の装置でした。
【今回メンテナンスを依頼しようと思ったきっかけは?】
しばらくは手持ちのステレオやあらゆる機器、そしてヤマハのCX-10000/MX-10000/NSX-10000などを使ってきましたが、やっぱり昔聴いたL-02Aの音が忘れられず、ヤマハを全部売ってL-02Aの環境づくりに集中することにしました。
『状態の良いL-02Aを所有し、発売当時のL-02Aをも上回る性能をもっと引き出してみたい』と。
そんな中、90年代中盤に念願のL-02A(1号機)を手に入れることができました。所有できたのは良かったのですが、すでに発売から10年以上が経過し、色々なところにガタが出始めていました。操作トレーが出てこないというのがよくある症状で、他の箇所もいつ悪化してもおかしくない。ならば1号機以上の状態が良いものはないかと、記念すべき1号機だけは残し、2台目3台目とL-02Aを買い足しては売って……という騙し騙しの状態でした。いま思えば、どの個体もそれなりの年数が経過し、結局どこか悪いところがありましたね。
なので、単なる修理だけではなくオーバーホールやフルメンテナンスをしてくださる所を探していたのですが、なかなか見つかりません。ネットを探せば修理業者など色々出てきますが、いろんなアンプを手掛けていてバックオーダーを抱えすぐに頼める状態ではなかったり、そもそもL-02Aをどこまで分かっているか疑問だったりで、なかなか頼めないでいました。「頼みたいが、頼めない」状態が数年続きました。その間は、電源を入れても長時間聴くと壊れるんじゃないかという不安から短時間聴いて終わり……というように、満足する楽しみ方はできなかったですね。
そんな中、元ケンウッドでサービスを担当し、当時の製品企画や技術陣とも交流があるクラフテッドオーディオサービスの松尾さんを知り、「ここなら!」と思い依頼しました。
【メンテナンスをやってみていかがでしたか?】
まず、アンプとしての普通の所作が普通にできる、その喜びがあります。
安心して電源を入れ、安心して長時間使用でき、安心してストレートDCだって使える。「いつ壊れるか分からない」という不安はありません。特にDCの怖さは……。いま私自身、OTLアンプのカウンターポイントSA-4をメンテしていますが、大事なスピーカーを繋げて飛んだら、ということを考えると本当に恐ろしい。だから安心して使えることが、本当にありがたいのです。
またメンテ内容もすべてオープンにしていただき、詳細なレポートもありました。基板や半田、一つ一つの作業や箇所に魂が入っていると感じました。レポートにわざわざ記載しない細かいところが多くあるのも、L-02Aの音を聴けばよく分かります。計測結果では歪率が0.0015%でしたが、パワー部だけだと0.001%を切っていると思います。これが43年前のアンプなわけですから、並大抵のアンプではないと思います。それをクラフテッドオーディオサービスの手で極限までやっていただいた、そう思っています。性能だけでなく、外観も新品に近い美しさに仕上がってきて、それも感動しました。
また私からの各種カスタマイズ依頼にも、あそこまで手を入れてもらえるとは思っていませんでした。丁寧に応えていただき、1~4号機への愛着も非常に高まっています。
いまこうしてL-02Aがきちんと音を出すという当たり前のレベルではなく、当時以上の鮮度・性能で音を出せるようになりました。この43年前のマテリアルでこの状態まで仕上がるのですから、リレーの防磁や増幅回路のドレン抵抗変更など今日的な手法で挑戦すれば、本来のポテンシャルはもっと引き出せるのではという新たな欲も出てきています。
【いまL-02Aを所有されている方へのメッセージはありますか?】
アンプという機器の本質を極めたものがL-02Aだと思います。今の製品は経済合理性が優先され過ぎているので、今後このような機器が出てくることはないと思っています。L-02Aは40年以上も前に現に出現していたわけですが、時代が古いからこそ見落とされがちなだけで、そこには現代の技術でも叶わないものがたくさん詰まっているのだと思います。当時のトリオ社内でも、開発者以外の技術者は分かっていなかった可能性があるのではと。開発者の方々は、言いたくても言えない部分もたくさんあったのだろうと思います。だからL-02Aは奇跡に近い機器だと私は思います。
この機器が今もなお苦労すれば手に入る、あるいはすでに手元に置いている方には、もう一度トリオ社が取り組んだ開発の真の成果を、ご自身で味わっていただきたいと思います。Σドライブなんて他社ではやりませんし、世界中のどこにもない。L-02Aはアンプの中のアンプなのだと。だから単なるセパレートアンプ、あるいはプリメインアンプという見方でいるのではなく、L-02Aが作られた時に開発者が何を目指していたのか、ということをもう一度見つめ直してもらえると、本当の価値が見えてくると考えています。
オーディオ評論家の菅野沖彦先生は「このL-02Aこそは最もコニサーズアイテムに相応しい製品である」と仰せでしたが、私は「L-02Aは80年代に製造された、日本工業製品の精華の一つであり、オーディオファイルの真のコニサーズアイテムである」と確信しております。(※コニサーとは、美術品など品位の高いアイテムに対し、鑑定や目利きを指す言葉です。)
ただ残念なことに、それが頭で分かっていても、現実化するにはそれが分かった技術者がいないと困るわけです。その現実化を今回叶えてくれたのが、クラフテッドオーディオサービスさんだということを知っていただきたいです。今回それを私自身が確認しました。
オーディオの症状別ガイド
第4回:電源が入らない
年代によって異なる原因と、ヒューズ交換に潜む危険性
「電源が入らない」——オーディオ機器で全般的に共通しそうな症状です。ただし、年代や機器の種類によって、起こっている要因の切り分けが違うことがあります。
今回は、機器の電源方式の違いを踏まえながら、電源が入らない場合に考えられる原因と、注意していただきたい点について解説します。
年代によって異なる電源方式
古いオーディオ機器は、レバースイッチやプッシュスイッチなどの機械式スイッチで、メイン電源(AC100Vが導通)をON/OFFします。当然、マイコンなど制御を司るブロックは存在せず、機械式スイッチによって電源操作、各種音質操作や機能操作を行います。
一方で、リモコンが付き始めた年代からは、メイン電源はスタンバイ電源方式となりました。ACコードをコンセントに挿すだけでスタンバイ状態(よくあるのはインジケーターだけ点灯)になり、電源スイッチやリモコンで電源ONとするものが、現在では主流となっています。これは機器内部のマイコンによって、電源操作、各種音質操作や機能操作を行う方式です。
古い製品において電源が入らないケース
起こっている現象としてよくあるのが、ヒューズ切れです。ヒューズを交換して直った、というケースもよく聞きます。しかし、そこには本来の原因が隠れているリスクがあります。
大切なのは、「なぜヒューズが切れたのか」という点です。
ヒューズの切れ方にも、いろいろあります。スパーク状でヒューズが断線した場合、ヒューズ内が赤熱しジワジワと切れた場合などです。
アンプでよくあるのは、ファイナルトランジスタがショートし、異常な大電流が流れてしまう場合です。このときヒューズはスパークし、速断してしまいます。ヒューズを何回交換しても、同じように切れます。この場合、ファイナルトランジスタだけの異常もあれば、そこが異常を起こして周辺のパワーアンプブロックまで故障させている場合など、状況はさまざまです。いずれにしても、きちんとした修理・メンテナンスが必要です。
ファイナルトランジスタ以外では、昔よく使われたヒューズ抵抗の抵抗値上昇や半田割れ、小電流を扱う回路のいずれかの部品の不具合などによって回路バランスが悪くなり、回路内での電流負荷が増すことがあります。すると、徐々にヒューズを通る電流が増え、いずれヒューズを切断してしまいます。この場合も、きちんとした修理・メンテナンスが必要です。
ヒューズは、交換して直すものではありません。あくまで、コンセント側のブレーカーやその他機器への悪影響防止、そして大事なオーディオ機器のそれ以上の故障や発熱、発火などを防ぐ、大事な安全部品です。容易な判断で使い続けるのは大変危険です。
マイコン制御の製品において電源が入らないケース
次に、現代の機器にあるマイコン制御の機器についてです。まずは、スタンバイ状態のインジケーターが点灯しているかどうかを確認します。
インジケーターが点灯せず、スタンバイ状態にもならない場合は、マイコン周りの制御回路の不具合も考えられます。マイコンは、動作電源(+5Vなど)のほかに、基準発振信号となる水晶発振子からの振幅信号、機器をONさせる時のリセット入力など、基本条件が揃っていないと電源をONにできません。このような場合は、制御回路周りの解析、修理が必要です。
その他の原因
ヒューズ断線やマイコン周りの不具合のほか、電源トランスの温度ヒューズ断線の場合もあります。
また、機器の電源を入れる系統や回路は、アンプやCDプレーヤーなど、機器の種類によってさまざまです。電源不具合は最悪の場合、発熱、発煙、発火などの大きなリスクも秘めているため、専門の技術者によるきちんとした処置が必要になります。
適切な対処策
電源が入らない症状で最も注意していただきたいのは、ヒューズを交換して様子を見る、という対処です。ヒューズが切れたという事実は、その手前で異常な電流が流れたという結果です。原因を確認しないままヒューズだけを交換すると、同じ故障を繰り返すだけでなく、機器内部の損傷範囲を広げてしまう可能性があります。
また、規定より容量の大きいヒューズを使用することは絶対に避けてください。ヒューズが安全部品として機能しなくなり、発熱や発火といった重大なリスクにつながります。
当サービスでは、電源が入らない機器について、まず機器の電源方式と症状の状態を確認します。機械式スイッチの機器であれば、ヒューズの切れ方から異常電流の性質を推定し、ファイナルトランジスタ、ヒューズ抵抗、電源回路周辺の部品状態を確認していきます。マイコン制御の機器であれば、スタンバイ状態の有無を起点に、動作電源、発振回路、リセット回路など、マイコンが起動するための基本条件を順に確認します。
電源部の不具合は、単に「電源が入るようになればよい」というものではありません。原因となった箇所を特定し、周辺への影響も含めて確認したうえで処置することが、機器を安全に長く使い続けるために欠かせません。
こんな症状がある場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、電源回路や保護回路、制御回路などに不具合が発生している可能性があります。
・電源スイッチを入れても、まったく反応がない
・ヒューズが切れている
・ヒューズを交換しても、すぐにまた切れてしまう
・電源を入れた瞬間に、ヒューズが飛ぶ
・ACコードを挿してもスタンバイのインジケーターが点灯しない
・スタンバイ状態にはなるが、電源がONにならない
・リモコンでも本体スイッチでも電源が入らない
・電源投入時に、焦げたようなにおいや異音がする
・古いアンプをしばらくぶりに使おうとしたら電源が入らない
電源に関する不具合は、発熱、発煙、発火などの大きなリスクを伴う場合があります。ヒューズの交換や通電の繰り返しといった自己判断での対処は、症状を悪化させたり、危険な状態を招いたりすることがあります。大切なヴィンテージオーディオを安心して使い続けるためにも、電源が入らない場合は、通電を続けずに専門的な点検をおすすめします。
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。電源が入らない、ヒューズが繰り返し切れる、スタンバイのインジケーターが点灯しないといった症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
オーディオの症状別ガイド
第3回:片CHから音が出ない
右だけ鳴る、左だけ鳴らない。その原因と対策
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、片側のチャンネルだけ音が出ないという症状に出くわすことがあります。
「右CHは正常に鳴っているのに、左CHだけ音が出ない」「しばらく使っていると片側だけ音が消える」「音量を上げると、突然片側の音が復帰する」——こうした症状は、一見すると原因が分かりにくく感じられます。しかし、信号の流れに沿って冷静に切り分けていくと、どのブロックで不具合が起きているのか、ある程度の見当をつけることができます。
昔の取扱説明書には、最後のほうに「故障かな?と思ったら」というページがよくありました。「スピーカー端子は正しく接続されていますか」「RCAピンジャックの差し込みが緩くなっていませんか」「スピーカーA/Bの切り替えは正しく設定されていますか」といった基本的な確認項目です。
もちろん、こうした確認は大切です。ただ、ヴィンテージアンプの場合は、それだけでは済まないケースも多くあります。ここでは、ケーブルの接続ミスやスピーカーの切り替え設定といった基本的な要因を除き、アンプ本体側で起こりやすいトラブルを中心に見ていきます。
片CH出ずで考えられる主な原因
プリメインアンプで片側の音が出ない場合、原因として多いのは次のような箇所です。
・入力基板、RCA端子まわりの接触不良や半田割れ
・入力セレクター、スピーカー切替スイッチなどの機械接点不良
・プリアンプ部、パワーアンプ部の部品不良
・メインボリューム、バランスボリュームの接点不良
・出力リレーの接点不良
・基板上の半田クラック、配線材やコネクターの接触不良
片側だけ音が出ないという症状は、「片側のスピーカー出力にだけ問題がある」と考えがちですが、実際には入力端子から出力端子まで、信号経路上のどこで途切れても発生します。そのため、最初に重要になるのが、プリアンプ部の問題なのか、パワーアンプ部の問題なのかを切り分けることです。
まずはプリアンプ部とパワーアンプ部を切り分ける
昔のプリメインアンプには、プリアンプ部とパワーアンプ部を分離して使用できる機種が多くあります。背面に「PRE OUT」「MAIN IN」「POWER AMP IN」などの端子がある機種です。このタイプのアンプでは、プリアンプ部をバイパスして、パワーアンプ部へ直接信号を入れることで、症状の切り分けができます。
たとえば、CDプレーヤーなどの可変出力を使い、音量を最小にした状態から、極小レベルの信号をPOWER AMP INに入力します。この状態で片側しか音が出ない場合は、プリアンプ部ではなく、パワーアンプ部以降に不具合がある可能性が高くなります。
逆に、POWER AMP INへ直接入力した場合に両CHとも正常に鳴るのであれば、パワーアンプ部は生きており、入力端子、セレクター、ボリューム、トーン回路、フィルター回路など、プリアンプ部側に原因があると考えられます。
ただし、この確認を行う場合は注意が必要です。POWER AMP INは、通常のAUXやCD入力とは違い、ボリューム回路を通らずにパワーアンプへ信号が入る構造の機種もあります。入力レベルが高い状態で接続すると、突然大音量が出る危険があります。必ず音量を最小にし、可変出力側も絞った状態から慎重に確認する必要があります。
パワーアンプ部で起こりやすい原因
POWER AMP INへ信号を入れても片側の音が出ない場合、原因はパワーアンプ部、出力リレー、スピーカー切替部、スピーカー端子周辺などに絞られてきます。
出力リレーの接点不良
ヴィンテージアンプで非常に多いのが、出力リレーの接点不良です。パワーアンプの出力は、保護回路を経由し、リレー接点を通ってスピーカー端子へ送られます。このリレーは、電源投入時のポップノイズ防止や、DC漏れなどの異常時にスピーカーを保護するための重要な部品です。
ところが、リレー内部の接点は機械接点です。長年の使用によって酸化、硫化、摩耗が進むと、接点抵抗が増え、片側だけ音が出ない、音が小さい、歪む、途切れるといった症状が出ます。
出力リレー不良で特徴的なのは、「ある程度音量を上げると急に音が出る」という現象です。これは、小信号時には接点表面の酸化膜を信号がうまく通過できず、ある程度大きな信号が入った瞬間に接点が一時的に導通するために起こることがあります。音量を上げたら直ったように見えても、根本的にはリレー接点の状態が悪くなっている可能性があります。
スピーカーA/B切替スイッチの接点不良
昔のアンプでは、スピーカーA/Bの切り替えに機械式スイッチを使っている機種が多くあります。現在の機種ではリレーで出力を切り替える設計も多いですが、1970〜80年代のアンプでは、スピーカー出力そのものをロータリースイッチやプッシュスイッチで切り替えているものがあります。
このスイッチも機械接点です。長年の使用で接点が酸化したり、内部に汚れが溜まったりすると、片CHだけ導通しなくなることがあります。スピーカーAでは片側が出ないが、スピーカーBに切り替えると出る。あるいは、スイッチを何度か操作すると一時的に復帰する。このような場合は、スピーカー切替スイッチの接点不良が疑われます。
パワーアンプ基板の半田割れ
パワーアンプ部は、アンプ内部でも特に熱の影響を受けやすいブロックです。ファイナルトランジスタ、ドライバートランジスタ、エミッタ抵抗、定電圧回路まわりなど、発熱する部品が多く配置されています。そのため、長年の熱膨張と収縮の繰り返しによって、基板の半田にクラックが発生しやすくなります。
半田割れは、単に片CHが出ないだけでなく、音途切れ、ノイズ、歪み、プロテクション動作、最悪の場合はファイナルトランジスタの破損につながることもあります。特にファイナルトランジスタ周辺や、大型抵抗、コネクター、ジャンパー線、ピン端子まわりは、物理的なストレスや熱の影響を受けやすい箇所です。
数十年経過したアンプでは、見た目には大きな異常がなくても、半田の状態がかなり悪くなっていることがあります。そのため、メンテナンスでは古い半田を吸い取り、必要箇所を再半田する処置が重要になります。単に「怪しいところだけ半田を足す」のではなく、劣化した半田を一度除去し、端子やランドの状態を確認したうえで再半田することが、長期的には安心です。
プリアンプ部で起こりやすい原因
POWER AMP INで両CHとも正常に鳴る場合、パワーアンプ部はおおむね正常と判断できます。この場合は、プリアンプ部側のどこかで信号が途切れている可能性が高くなります。
プリアンプ部には、入力切替、トーンコントロール、ラウドネス、フィルター、MODE切替、バランス調整、メインボリュームなど、多くの機能ブロックがあります。信号は、RCA入力端子からセレクターを通り、各種スイッチやボリューム、増幅回路を経由して、最終的にパワーアンプ部へ送られます。その経路上のどこか一箇所で接触不良や部品不良が起きるだけで、片CH出ずは発生します。
入力端子、RCAジャックまわりの半田割れ
基板実装型のRCA端子を採用しているアンプでは、入力端子まわりの半田割れがよくあります。RCAケーブルは抜き差しの際に端子へ力がかかります。その力が基板の半田部分へ直接伝わる構造の場合、長年の使用でRCA端子の足元にクラックが入ります。
この場合、入力端子を少し動かすと音が出たり消えたりすることがあります。また、特定の入力だけ片CHが出ない場合は、その入力端子や入力基板周辺の不良が疑われます。CD入力では左が出ないが、AUX入力では正常。TUNER入力では問題ないが、PHONO入力だけ片側が出ない。こうした場合は、パワーアンプやメインボリュームよりも、入力端子や入力セレクターまわりの不良が疑われます。
入力セレクターの接点不良
ヴィンテージアンプの入力セレクターには、ロータリースイッチやスライドスイッチが多く使われています。これらのスイッチは、信号のL/Rをそれぞれ独立した接点で切り替えています。片側の接点だけ酸化や汚れで導通不良を起こすと、片CHだけ音が出なくなります。
セレクターを少し動かすと音が出る。入力を何度か切り替えると一時的に復帰する。特定のポジションだけ片側が出ない。こうした症状は、セレクター接点の劣化でよく見られます。
特に古いアンプでは、TAPE MONITOR、ADAPTOR、SUBSONIC FILTER、HIGH FILTER、LOUDNESSなど、信号経路上に多数のスイッチが入っている機種もあります。どれか一つのスイッチ接点が悪くなるだけで、片CH出ずや音途切れが発生します。
MODEスイッチによる切り分け
昔のアンプには、STEREO/MONO、L/R、L+Rなどを切り替えるMODEスイッチが搭載されている機種が多くあります。このMODEスイッチは、片CH出ずの切り分けに役立つことがあります。
たとえば、STEREOでは左CHが出ないが、MONOにすると両方のスピーカーから音が出る場合、少なくともMODEスイッチ以降、またはL+Rミックス後の回路は動作している可能性があります。逆に、MONOにしても片側が出ない場合は、MODEスイッチ以降のバランスボリューム、メインボリューム、プリアンプ出力段、あるいはパワーアンプ部以降の不具合が疑われます。
このように、MODEスイッチは単なる機能スイッチではなく、信号経路のどこまでが生きているかを判断する手がかりになります。
メインボリューム、バランスボリュームの不良
メインボリュームやバランスボリュームの接点不良も、片CH出ずの原因になります。ボリュームはL/Rの2連構造になっていることが多く、片側の摺動接点だけが劣化すると、片CHだけ音が小さい、出ない、ガリ音が出るといった症状になります。
バランスボリュームの場合も同様です。センター位置にしているつもりでも、内部の接点が劣化していると、片側だけ信号が通らなくなることがあります。ボリュームを少し動かすと音が出る。特定の音量位置で片側だけ消える。バランスを動かすと一時的に復帰する。こうした場合は、ボリューム内部の接点劣化や抵抗体の摩耗が疑われます。
接点洗浄で一時的に改善することもありますが、抵抗体そのものが摩耗している場合や、内部構造が劣化している場合は、洗浄だけでは根本的な改善にならないこともあります。
半田不良はあらゆる症状の原因になる
片CH出ずの原因として、半田不良は非常に重要です。ヴィンテージアンプでは、発熱部品の周辺だけでなく、入力端子、スイッチ基板、ボリューム基板、コネクター部、ワイヤーラッピング端子など、さまざまな箇所で半田割れが起こります。
半田割れは、完全に断線していれば分かりやすいのですが、実際には「触ると出る」「温まると出ない」「振動で変わる」といった不安定な症状になりやすいのが厄介です。電源投入直後は正常でも、時間が経つと片側が消える。本体を軽く叩くと音が出る。スイッチ操作やボリューム操作をきっかけに症状が変わる。こうした場合、接点不良だけでなく、基板上の半田クラックも疑う必要があります。
特に、パワーアンプ部の半田不良は注意が必要です。信号が途切れるだけならまだしも、バイアス回路やドライバー段、出力段周辺の接触不良が進行すると、異常発振や過電流、DC漏れなどにつながる場合があります。最悪の場合、ファイナルトランジスタやスピーカーにダメージを与える可能性もあります。
片CH出ずを放置しないほうがよい理由
片CHから音が出ない症状は、接点不良のように見えることも多くあります。実際、スイッチを何度か動かすと復帰したり、音量を上げると鳴り出したりすることもあります。しかし、これは「直った」のではなく、一時的に導通が戻っているだけのケースが多くあります。
リレー接点、スイッチ接点、ボリューム、半田クラックなどは、いずれも経年劣化が進行する部位です。一度症状が出始めた場合、自然に安定した状態へ戻ることはあまり期待できません。
特にパワーアンプ部の半田不良や出力段周辺の不具合は、放置すると故障範囲が広がる可能性があります。最初は「片側がたまに出ない」程度だったものが、最終的にはプロテクションが解除されない、ヒューズが飛ぶ、出力トランジスタが破損する、といった重い故障につながることもあります。
適切な対処策
片CHから音が出ない症状では、原因箇所を信号経路に沿って特定し、その原因に応じた処置を行うことが重要です。一時的に音が戻る場合でも、接点や半田、リレーなどの劣化が進行しているケースが多く、症状が出ている箇所だけでなく、関連する周辺部まで確認する必要があります。
RCA端子や基板端子部、発熱部品周辺などに半田割れが見られる場合は、劣化した半田をそのまま上から盛るのではなく、古い半田をきれいに吸い取り、ランドや端子の状態を確認したうえで再半田を行います。特にパワーアンプ基板では、ファイナルトランジスタ、ドライバートランジスタ、大型抵抗、コネクター、ジャンパー線まわりなどに熱や振動の影響が出やすいため、慎重な確認が必要です。
入力セレクター、MODEスイッチ、TAPE MONITORスイッチ、スピーカーA/B切替スイッチなどの機械接点に不良がある場合は、接点の状態を確認し、適切な洗浄処理を行います。単に接点復活剤を吹き付けるだけでは、汚れや酸化膜が残ったり、内部に薬剤が過剰に残ったりすることがあります。症状や構造に応じて、接点部へ確実に処置が届くように作業することが大切です。
メインボリュームやバランスボリュームに接触不良がある場合も、接点の洗浄や内部状態の確認を行います。ボリュームはL/Rの2連構造になっていることが多く、片側の摺動接点だけが劣化すると、片CHだけ音が出ない、音が小さい、ガリ音が出るといった症状につながります。内部の汚れや酸化による不良であれば洗浄で改善する場合がありますが、抵抗体の摩耗や破損がある場合は、部品交換が必要になることもあります。
出力リレーの接点不良が原因の場合は、リレーの状態を確認し、必要に応じて交換を行います。リレー接点は、長年の使用により酸化や硫化、摩耗が進み、接点抵抗が増えることで片CH出ずや音途切れを引き起こします。「音量を上げると突然音が出る」という症状は、出力リレーの接点不良でよく見られる現象です。洗浄で対応できる場合もありますが、接点の劣化が進んでいる場合は交換が望ましい処置となります。
部品不良が確認された場合は、回路上の役割や動作条件を確認したうえで、できる限りオリジナルの設計思想を尊重した部品選定を行います。単に同じ数値の部品へ置き換えるのではなく、耐圧、容量、許容損失、温度特性、リード形状、音声信号経路上での役割などを踏まえて選定することが重要です。ヴィンテージ機器では、部品そのものの性能だけでなく、当時の回路設計や音づくりとのバランスも大切になります。
また、スイッチやボリュームなど、部品によっては交換部品が入手できないこともあります。その場合は、分解洗浄や接点修正などにより、可能な限り既存部品を活かして改善を図ることもあります。特に専用形状のロータリースイッチや特殊なボリュームは、安易に代替品へ交換すると操作感や特性が変わってしまう場合があるため、状態を見極めたうえで処置を判断します。
片CH出ずの修理では、原因箇所だけを一時的に復旧させるのではなく、入力端子、セレクター、各種スイッチ、ボリューム、プリアンプ部、パワーアンプ部、出力リレー、スピーカー端子まで、信号経路全体の状態を確認することが大切です。症状の出ている箇所と同じように劣化が進んでいる箇所が周辺にもある場合、そこを見落とすと、修理後に別の箇所で音途切れや片CH出ずが再発する可能性があります。
こんな症状が出る場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、機器内部の接点不良、半田割れ、出力リレーの接点劣化、ボリューム不良、コネクター不良、部品劣化などが発生している可能性があります。
・左右どちらか一方のスピーカーから音が出ない
・片側だけ音が出たり出なかったりする
・しばらくすると片側の音が戻る
・電源投入直後は正常だが、温まると片側だけ音が途切れる
・音量を上げると、突然片側の音が出る
・ボリュームやバランスを触ると片側の音が戻る
・入力切替やスピーカー切替で音が不安定になる
・MODEスイッチやTAPE MONITORスイッチを触ると症状が変わる
・特定の入力だけ片側の音が出ない
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
・古いアンプを使っていると断続的に片側の音が出なくなる
片CHから音が出ない症状は、放置すると症状が悪化したり、別の部品に負担がかかったりする場合があります。特にパワーアンプ部の半田不良や出力段周辺の不具合は、プロテクション動作、ヒューズ切れ、ファイナルトランジスタの破損など、より大きな故障につながる可能性があります。
また、接点復活剤などの応急処置によって、一時的に症状が改善したように見えても、かえって原因の特定や修理が難しくなることもあります。大切なヴィンテージオーディオを安心して使い続けるためにも、症状が繰り返し出る場合は、専門的な点検をおすすめします。
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。片側だけ音が出ない、しばらくすると音が戻る、ボリュームやスイッチを触ると片側の音が復帰するといった症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
オーディオの症状別ガイド
第2回:音途切れ
音が出たり出なかったりする原因と対策
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、音楽を聴いている途中で突然音が途切れ、しばらくするとまた音が出始めることがあります。
音途切れは、常に同じタイミングで発生するとは限りません。電源を入れた直後は正常でも、時間が経ってから症状が出ることもあれば、操作や振動をきっかけに一時的に音が戻ることもあります。そのため、原因の切り分けが難しい不具合のひとつです。
また、複数のオーディオ機器を組み合わせて使用している場合、アンプ、プレーヤー、ケーブル、スピーカー、ネットワーク音源など、どこに原因があるのか分かりにくいことがあります。
特に近年では、ネットワークプレーヤーやストリーミング再生など、再生ソース側の問題で音が途切れるケースもあります。この場合、アンプやオーディオ機器本体は正常で、通信環境や再生アプリ、ネットワーク機器側に原因があることもあります。今回は、そうした外部要因ではなく、アンプなどのオーディオ機器本体側で発生する「音途切れ」について解説します。
音途切れとはどのような症状か
音途切れとは、再生中の音が断続的に途切れたり、突然出なくなったりする症状です。代表的な症状としては、以下のようなものがあります。
・音楽を聴いている途中で突然音が途切れる
・しばらくするとまた音が出る
・片側のスピーカーだけ音が出たり出なかったりする
・電源投入直後は正常だが、温まると音が途切れる
・ボリュームやスイッチを触ると一時的に音が戻る
・入力切替やスピーカー切替の操作で音が不安定になる
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
完全に音が出ない故障と異なり、音途切れは症状が出たり出なかったりする点が厄介です。修理の現場でも、症状が再現しない場合は原因の特定に時間がかかることがあります。そのため、いつ、どの入力で、左右どちらに、どのくらいの頻度で発生するかを確認することが重要になります。
まず確認したい切り分けポイント
音途切れが発生した場合、すぐにアンプやプレーヤー本体の故障と判断する前に、周辺環境も含めて確認することが大切です。
たとえば、ネットワーク音源を使用している場合、通信状態や再生アプリ、ルーターなどの影響で音が途切れることがあります。また、RCAケーブル、スピーカーケーブル、入力端子、スピーカー端子の接触状態によっても、音途切れのような症状が出る場合があります。
切り分けの際は、以下のような確認が有効です。
・別の入力でも同じ症状が出るか
・左右どちらか一方だけに症状が出るか
・別のケーブルに替えても症状が出るか
・別の再生機器でも同じ症状が出るか
・ヘッドホン出力でも症状が出るか
・電源投入直後と時間経過後で症状が変わるか
・ボリュームやスイッチ操作で症状に変化があるか
こうした確認によって、機器本体側の不具合か、周辺機器や再生環境によるものかをある程度絞り込むことができます。ここからは、アンプなどのオーディオ機器内部で音途切れが発生する代表的な原因について解説します。
音途切れが発生する主な原因
アンプを例にすると、音途切れの代表的な原因として、主に以下のようなものが挙げられます。
・基板の半田割れ
・スイッチやリレーなどの接点不良
・部品不具合による不安定な回路動作
・コネクターや配線部の接触不良
これらはいずれも、音声信号や電源供給が不安定になることで、音が出たり途切れたりする原因になります。特にヴィンテージアンプや古いオーディオ機器では、長年の熱、振動、酸化、部品劣化が重なり、複数の原因が同時に発生していることもあります。
基板の半田割れによる音途切れ
音途切れの原因としてよく見られるもののひとつが、基板の半田割れです。半田は、部品を基板に固定し、電気的に接続するための重要な部分です。しかし、長年の使用による熱の影響、振動、部品自体の重さによるストレスなどによって、半田部分には少しずつ金属疲労が蓄積していきます。その結果、半田に細かな割れが生じ、接続が不安定になることがあります。
半田割れが厄介なのは、完全に断線しているとは限らない点です。割れ始めの過渡期では、温度変化による金属の伸縮によって、つながっている時、離れている時、離れかけて抵抗値を持っている時が不規則に発生します。これにより、音が突然途切れたり、時間が経つと戻ったり、振動を与えると症状が変化したりします。
また、半田割れは目視で確認できる場合もありますが、微細なクラックの場合は一見して分かりにくいこともあります。そのため、症状の出方や回路上の位置を見ながら、疑わしい箇所を確認していく必要があります。
スイッチやリレーの接点不良による音途切れ
音途切れの原因として、スイッチやリレーなどの接点不良も多く見られます。アンプ内部には、入力切替スイッチ、スピーカー切替スイッチ、ミューティング回路、出力リレーなど、音声信号が通過する接点が複数あります。
これらの接点が酸化や硫化、汚れの付着によって導通不良を起こすと、接点抵抗値が上昇したり、一時的に接触しなくなったりすることで、音声信号が不安定になります。その結果、音が途切れたり、片側だけ音が出なくなったりすることがあります。
また、前回の「ガリ」でも解説したように、ボリュームやバランス調整部の接点不良が、音途切れとして現れる場合もあります。
特に注意が必要なのは、接点復活剤の影響です。経年による酸化や硫化だけでなく、過去に使用された接点復活剤が内部に残り、汚れや摩耗粉と混ざって、接点表面に膜のようなものを作ってしまうことがあります。このような状態になると、接触がさらに不安定になり、かえって音途切れの原因になる場合があります。
部品不具合による不安定な回路動作
音途切れは、半田割れや接点不良だけでなく、電子部品の劣化や不具合によって発生することもあります。代表的なものとしては、以下のような要因があります。
・電解コンデンサの劣化
・ヒューズ抵抗の劣化
・トランジスタやICなど半導体部品の不具合
・半導体の足に付着するマイグレーションやウィスカ
・抵抗、コンデンサ、半導体などの受動・能動素子の不安定化
電解コンデンサは、経年によって容量抜けや内部抵抗の上昇が起こることがあります。これにより、電源回路や信号回路が不安定になり、音途切れの原因になる場合があります。
また、1980年代前後のオーディオ機器では、ヒューズ抵抗が使われている機種も多くあります。ヒューズ抵抗は保護目的で使用される部品ですが、経年によって抵抗値が変化し、回路動作に影響を与えることがあります。
さらに、トランジスタやICなどの半導体部品では、足周辺にマイグレーションやウィスカが発生し、異常な導通を起こすことがあります。こうした異常伝導により、回路が突発的に不安定になり、音途切れやノイズ、片チャンネルの不安定動作につながる場合があります。これらの不具合は、見た目だけでは判断できないことも多く、測定や動作確認を通じて原因を絞り込む必要があります。
コネクターや配線部の接触不良
コネクターや配線部の不良も、音途切れの原因になります。オーディオ機器内部には、基板同士をつなぐコネクターや、スイッチ、ボリューム、端子、電源部をつなぐ配線が多く使われています。これらの接続部では、以下のような不具合が起こることがあります。
・修理やメンテナンスの繰り返しによるコネクターピンの接触圧低下
・内部の発熱や振動による金属ピンの接触圧低下
・金属ピンと線材の圧着不良
・ピン表面の酸化や汚れ
・コネクターや端子の変形
・ケーブル被覆の劣化による絶縁不良
コネクターは、一見しっかり差し込まれているように見えても、内部のピン圧が弱くなっていると、わずかな振動や温度変化で接触が不安定になることがあります。また、コネクターケーブルの被覆が加水分解などによって劣化し、隣接する線材との絶縁不良を起こす場合もあります。このような状態になると、接続部で接点抵抗を持ったり、断続的に接触が離れたりして、音途切れが発生します。
適切な音途切れ対処策
音途切れは、症状だけを見ると同じように見えても、原因はひとつとは限りません。半田割れ、接点不良、部品劣化、コネクター不良など、複数の要因が重なって発生していることもあります。そのため、音が途切れるからといって、安易に接点復活剤を使用したり、特定の部品だけを交換したりするのはおすすめできません。
大切なのは、どの条件で症状が出るのかを確認し、信号の流れに沿って原因を切り分けていくことです。当サービスでは、症状の再現確認、各入力・各出力での動作確認、スイッチやリレーの接点確認、基板の半田状態、部品の測定、コネクターや配線部の確認などを行い、原因に応じた対処を検討します。
半田割れが確認される場合は、劣化した半田を必要に応じて吸い取り、適切に再半田を行います。一度劣化した半田は、単に上から新しい半田を足すだけでは十分な処置にならない場合があります。古い半田を残したまま新しい半田を混合すると、金属組成や接合状態の面で品質が不安定になる可能性があるためです。
接点不良が見られる場合は、接点表面の状態、汚れの種類、摩耗の進行具合を確認したうえで、適切な処置を検討します。接点が構成された部品を状態に応じて分解し、酸化・硫化・汚れの除去を行います。接点復活剤の影響が強く残っている場合は、必要に応じて洗浄・研磨を行い、接点表面を整えます。
部品劣化が原因と考えられる場合は、測定や動作確認を行い、必要に応じて部品交換を検討します。電解コンデンサ、トランジスタ、ICなどは、単なる交換部品ではなく、音決め要素にも関わる重要なパーツです。そのため、交換が必要な場合でも、数値だけで判断するのではなく、回路上の役割やオリジナルの設計意図を踏まえ、慎重に部品選定を行います。
コネクターや配線部に不具合がある場合は、ピンの接触圧、端子表面の状態、線材の圧着状態、被覆の劣化などを確認します。そのうえで、コネクターピンの清掃または交換、ピン圧の再調整、端子の交換、ケーブルの入れ替えなど、原因の状態に合わせて処置を行います。
ヴィンテージオーディオでは、単に音が出る状態に戻すだけでなく、その機器本来の安定した動作を取り戻すことが重要です。音途切れの対処では、症状の原因を一つずつ確認し、必要な箇所に必要な処置を行うことが大切だと考えています。
こんな症状がある場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、機器内部の接点不良、半田割れ、部品劣化、コネクター不良などが発生している可能性があります。
・音楽を聴いている途中で音が途切れる
・片側だけ音が出たり出なかったりする
・しばらくすると音が戻る
・電源投入直後は正常だが、温まると音が途切れる
・ボリュームやスイッチを触ると音が戻る
・入力切替やスピーカー切替で音が不安定になる
・本体に軽い振動を与えると音が出たり消えたりする
・ネットワーク音源ではないのに再生中の音が途切れる
・古いアンプを使っていると断続的に音が出なくなる
音途切れは、放置すると症状が悪化したり、別の部品に負担がかかったりする場合があります。また、接点復活剤などの応急処置によって、かえって原因の特定や修理が難しくなることもあります。大切なヴィンテージオーディオを安心して使い続けるためにも、症状が繰り返し出る場合は、専門的な点検をおすすめします。
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。音が途切れる、片側だけ音が出ない、しばらくすると音が戻るといった症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
オーディオの症状別ガイド
第1回:ガリ
ボリュームを回すと出るガリガリ音の原因と対策
ヴィンテージアンプや古いオーディオ機器を使っていると、ボリュームを回した時に「ガリガリ」「バサバサ」といったノイズが出ることがあります。この症状は、一般的に「ガリ」と呼ばれています。
ボリュームのガリは、主にアナログボリューム部品を持つ製品で起こる経年劣化症状のひとつです。アンプの音量ボリュームだけでなく、CDプレーヤーやカセットデッキなどの再生機器側にあるLINE OUT出力調整、REC VOL調整、バランス調整などでも発生することがあります。
オーディオ機器において、ボリュームは単なる操作部品ではありません。音声信号が通過する重要な部品であり、最適な音量で再生・録音するために、回路上で重要な役割を担っています。そのため、良い状態で音楽を聴く、録るためには、ボリューム部品の劣化や接触不良はできる限り解消しておきたい部分です。
「オーディオの症状別ガイド」では、オーディオ機器に起こりやすい不具合を症状ごとに取り上げ、その原因や注意点、修理・メンテナンスで大切になる考え方を解説していきます。第1回は、ヴィンテージアンプでもご相談の多い「ガリ」についてです。
ガリとはどのような症状か
ガリは、主に音量調整をしている時に発生します。代表的な症状としては、ボリュームを回すと「ガリガリ」と音がする、音量調整時に「バサバサ」「バリバリ」とノイズが出る、片側の音が一瞬途切れる、特定の位置で音が不安定になる、小音量時に左右の音量差が気になる——といったものがあります。
意外に思われるかもしれませんが、無音状態でボリュームを回しても、ガリが分かりにくい場合があります。修理作業など専門的な確認では、音楽ソースではなく基準信号などを入力し、ボリュームを動かした際のノイズや信号の乱れを確認することがあります。音楽再生中には気づきにくい接触不良も、こうした確認によって把握できる場合があります。
ガリは、アンプのメインボリュームだけに発生するものではありません。バランス調整、入力切替、REC VOL、LINE OUTの出力調整など、アナログ接点を持つ部分であれば同様の症状が出る可能性があります。
ボリュームのガリが発生する主な原因
ボリュームのガリは、内部の接点不良によって発生することが多くあります。ボリューム内部には、音声信号を可変させるための接点があります。よく知られているのは、抵抗体の上を動く摺動子、いわゆる回転ブラシ部分の接点不良です。
しかし、ガリの原因はそれだけではありません。ボリューム内部には、入力側の信号を摺動子へ伝えるための金属接点もあります。つまり、主に以下のような接点部分が関係しています。
・抵抗体の上を動く摺動子の接点
・入力信号を摺動子へ伝える金属接点
・回転軸周辺の接触部
長年の使用により、これらの接点部分には摩耗粉、汚れ、酸化、硫化、古くなったグリスなどが堆積していきます。特に、ボリュームを回転させることで発生するカーボン抵抗体や金属面の摩耗粉が接点に入り込むと、導通を妨げる原因になります。その結果、ボリュームを回した時に接触が断続的になり、「ガリガリ」というノイズとして聞こえるようになります。
また、回転軸周辺のグリスが経年で変質し、汚れや摩耗粉と混ざることで、簡単には落としにくい状態になっているケースもあります。しばらく使用していなかった機器では、接点表面の酸化やグリスの劣化によって、久しぶりに動かした時にガリが出ることもあります。
ボリュームを何度も回すと直る?
ガリが出た時に、ボリュームを何度も回して馴染ませるという対処を見かけることがあります。確かに、一時的にノイズが軽くなる場合はあります。これは、接点上にあった汚れや摩耗粉が一時的に移動し、接触状態が変わるためです。
ただし、これは根本的な改善ではありません。むしろ、必要以上に何度も回すことで、カーボン抵抗体や金属接点をさらに摩耗させてしまう可能性があります。結果として、新たな摩耗粉が発生し、ガリの原因となる汚れを増やしてしまうこともあります。
「回したら少し良くなった」という状態でも、内部の汚れや接点不良が解消されたわけではありません。症状が繰り返し出る場合は、応急的な対処ではなく、ボリューム内部の状態を確認することが大切です。
接点復活剤の使用には注意が必要です
ガリが出た時に、市販の接点復活剤を吹き付ける対処を見かけることがあります。しかし、当サービスではヴィンテージアンプや古いオーディオ機器に対して、安易な接点復活剤の使用は基本的に推奨していません。
本来、ボリューム内部の汚れや摩耗粉を取り除くためには、異物を十分に洗い流し、接点部分を適切な状態に戻す必要があります。しかし、ボリュームを機器に取り付けたままの状態で、それを確実に行うことは簡単ではありません。
接点復活剤を吹き込むことで、一時的にノイズが減ったように感じる場合があります。しかし、実際には内部に残った汚れや古いグリス、摩耗粉が薬剤と混ざり、かえって固着してしまうことがあります。その結果、より大きな汚れの塊となり、再び接触不良を起こす原因になる場合もあります。
また、接点復活剤にはさまざまな成分が含まれているため、基板や周辺部品に付着した場合、別の不具合につながる可能性もあります。特にヴィンテージ機器では、オリジナル部品の入手が難しいことも多いため、安易な処置で状態を悪化させてしまうと、修理の選択肢が限られてしまうことがあります。大切な機器ほど、症状の原因を確認したうえで、慎重に対応することが重要です。
適切なガリ対処策
一般的に、ガリが発生したボリュームは交換するのが分かりやすい対処方法です。新品のボリュームに交換できれば、部品としての性能は回復しやすくなります。しかし、ヴィンテージオーディオの場合は簡単ではありません。
古い機器では、当時と同じオリジナル部品がすでに入手困難になっていることが多くあります。特に海外製のボリュームや専用品の場合、同等部品の確保が難しいケースも少なくありません。また、サイズや抵抗値が近い部品が見つかったとしても、単純に交換すればよいとは限りません。
ボリュームは、音量を調整するだけの部品ではなく、音量変化の仕方、左右差、回転トルク、操作感、音の印象にも関わる重要な部品です。当時のオーディオメーカーは、機種ごとの設計思想や音づくりに合わせて、ボリューム部品を選定していました。
そのため、当サービスでは可能な限り、当時そのボリュームが採用された意図や狙いを尊重します。交換ありきではなく、オリジナル部品の状態を確認し、分解洗浄や調整によって改善できるかを見極めます。
ボリュームの構造上可能な場合は分解し、内部にたまった汚れ、摩耗粉、古いグリス、接点の酸化や硫化を確認します。特に回転軸近くの金属接点では、回転軸グリスが浸透し、汚れや摩耗粉と混ざって簡単には落とせない状態になっているケースもあります。摺動子や金属接点については、状態に応じて特殊溶剤や超音波洗浄などを用い、導通を妨げる異物や酸化・硫化の除去を行います。
洗浄後は、単に組み戻して終わりではありません。ボリューム単体での動作確認や左右差の確認を行い、必要に応じて調整します。また、ヴィンテージ機器では、ボリュームを回した時の重さや滑らかさも大切な要素です。価値ある機器ほど、音が出ることだけでなく、操作した時の質感まで含めて整えることが重要だと考えています。
最終的な仕上げでは、回転軸部に適切なトルクグリスを塗布し、回した時の感触も確認しながら仕上げていきます。当サービスでは、ガリを抑えることだけを目的とするのではなく、その機器らしい操作感や使い心地をできる限り損なわない対処を目指しています。
こんな症状がある場合はご相談ください
以下のような症状がある場合は、ボリュームや接点部分に不具合が発生している可能性があります。
・アンプのボリュームを回すとガリガリ音が出る
・音量調整時にバサバサ、バリバリとノイズが入る
・片側の音が一瞬途切れる
・小音量時に左右差がある
・特定のボリューム位置で音が不安定になる
・バランスつまみや入力切替を動かすとノイズが出る
・REC VOLやLINE OUT調整時にノイズが出る
・接点復活剤を使っても症状が再発する
・古いアンプを久しぶりに使ったらガリが出た
ボリュームのガリは、初期段階であれば分解洗浄や調整で改善できる場合があります。一方で、抵抗体の摩耗や部品破損が進んでいる場合は、交換や代替部品の検討が必要になることもあります。大切なヴィンテージオーディオを長く安心して使うためにも、自己判断で処置を重ねる前に、専門的な点検をおすすめします。
Crafted Audio Servicesでは、ヴィンテージアンプをはじめとしたオーディオ機器の点検・修理・メンテナンスを承っております。ボリュームを回した時のガリガリ音や、音量調整時のノイズでお困りの際は、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
ケンウッドOBが集結した夜 ── Lシリーズ試聴会レポート
「生み出した側」と「甦らせる側」が、音を通じて再会した日の記録。
先日、Crafted Audio Services(CAS)の運営母体である株式会社ティーエス・プロ(TS-PRO)の厚木事業所オーディオサロンにて、ケンウッド(トリオ)Lシリーズの試聴会を開催しました。
集まったのは、かつてケンウッドで製品の企画・設計・品質管理などに携わっていたOBの皆さま、約10名。目の前に並ぶのは、CASが完璧にレストアしたLシリーズのフラッグシップたち。L-01A、L-02A、L-08C/08M——いずれもマニア垂涎の名機ばかりです。
試聴会で鳴らした機材は、すべてCASでフルレストア済みのものです。
アンプ
・L-01A / L-01T(1979年)
・L-08C / L-08M / L-08PS(1980年)
・L-02A / L-02T(1982年)
スピーカー
・LS-100(1979年)
・LS-1000(1981年)
・LS-CX7 soleade(1992年)
プレーヤー / DAC
・KP-1100(1985年)
・DP-900(1984年)
・DPF-7002(1997年)
中でもL-08Cは動作品ですらほぼ見かけない超希少モデル。L-02Aは海外仕向け仕様の個体で、バナナ端子を装備した珍しいバリエーションです。いずれもCASの熟練エンジニアが、純正・オリジナル重視の方針で仕上げています。
試聴が始まると、それまで和やかだった空気が一変しました。
OBの皆さんは、真剣な表情で音に集中し、目をつぶってうなずいたり、ふと笑みをこぼしたり。ご自身が携わった製品が、何十年という時を経てなお、こうして完調の状態で音を奏でている——その事実に、深く感じ入っている様子が伝わってきました。
各々が持ち合った音源を聴き比べる場面では、当時の開発秘話や思い出が次々と飛び出し、会場は熱気に包まれました。圧巻は、当時TRIO/KENWOODが音質決定で実際に使用していた音源を再生し、開発当時さながらの試聴ができたことです。当時のモノづくりでは、市販の音源に頼らず、自ら演奏からレコーディングまで手掛けていたといいます。その音源をLシリーズで鳴らしたとき、現代の製品群にも決して引けを取らない表現力に驚かされました。
私たちは、日頃思い入れに応えることをモットーとしています。お客さまが大切にしてきた機器を預かり、丁寧にメンテナンスし、もう一度その音を届ける。そこにやりがいを感じてきました。
今回、実際に開発や企画の現場に携わっておられた方々と同じ空間で音を聴いたことで、気づかされたことがあります。
当時のケンウッドが、会社としてどれほどの体力を注ぎ込んでモノ作りをしていたか。オーディオ業界の中でどれほど中心的な存在だったか。そして、そこに関わった一人ひとりの技術者がどれだけの情熱を持っていたか——。
実際にお話を伺い、目の前の機器が鳴る音を共有したとき、その重みは想像以上でした。
ヴィンテージオーディオのメンテナンス・レストアという仕事は、「使う方に喜んでいただく」だけではない。かつてその製品を生み出した方々——開発者、設計者、企画担当者——の思いにも繋がっているということ。
私たちが一台一台と向き合い、丁寧に復活させる仕事には、作り手の魂をも未来へ繋ぐという役割があるのだと、改めて感じました。
今回ご参加いただいたOBの皆さまからは、大変ありがたいことに大きな反響をいただきました。今後さらにこうした交流の輪が広がっていく手応えを感じています。
なお、今回の試聴会にはオーディオ雑誌「ステレオ時代」の取材も入っており、イベントの詳細なレポートは次号に掲載される予定です。機材の技術的な背景やOBの皆さんの経歴、試聴の詳しい模様などは、ぜひそちらでお楽しみください。
TS-PRO 厚木事業所 オーディオサロン
CASがレストアした機器の試聴が可能です。
予約専用番号:050-3504-1505
受付時間:9:00〜17:00(平日のみ)
所在地:神奈川県厚木市岡田3050 厚木アクストメイン・タワー21階
寺島靖国氏「オーディオ散歩」取材を振り返って
季刊アナログ vol.91(2026年春号)の連載「オーディオ散歩」第40回に、弊社が取り上げられました。
取材当日の様子をお伝えします。

オーディオ・サロンへようこそ
弊社には全国3か所にサービスセンター併設の試聴ゾーンがあります。今回は神奈川事業所内の試聴室「オーディオ・サロン」に、JAZZ評論家・寺島靖国氏をお迎えしました。
実際にお会いすると、とても気さくで温かみのある方。ご自身も「寺島レコード」を主宰されるほどのオーディオ好き。手にするレコードには、何か親近感もありました。
修理現場をご見学に
まず事業所内のメーカーサービス修理現場をご案内しました。最新のネットワークオーディオからヴィンテージ機器まで幅広くリペアする職人の姿を間近でご覧になり、大変驚かれた様子でした。
相模湾を見渡せる明るい環境での作業風景は、よくある「暗い修理工場」のイメージとはまったく異なるもの。 記事中で寺島氏が「こういう病院に入りたい」と書いてくださったのも、この景色と環境から来るものだと思っています。
4つの視聴ゾーンを体験

続いてオーディオ・サロンの4つの試聴ゾーンをご体験いただきました。
・80年前後のケンウッドLシリーズ(Σドライブでの試聴ができる貴重な環境です)
・B&WとDENONの現代システム
・自作の15インチスピーカーシステム
・熊本・阿蘇を拠点とするスピーカー専門クラフトメーカー「HigoBeat」のシステム
試聴には寺島氏と縁の深いドラマー・松尾明氏のアルバムをセレクト。 自作スピーカーシステムで曲が終わるや否や「ちょっとやそっとではなかなか聴けない音だ」とお言葉をいただきました。また、HigoBeatのシステムを特に高くご評価いただき、誌面では「見える音」と表現してくださっています。 弊社オーディオサロンではHigoBeat製品の販売も行っています。
取材を終えて
修理現場、試聴ゾーン、弊社のオーディオサービスの展開と、情報盛りだくさんの取材となりました。帰り際に寺島氏から「記事にするのが難しいな〜」とおっしゃっていただいたのが、充実した時間だったことの何よりの証だと思っています。実際に誌面を手にしてみると、巻頭に近い良いページに掲載いただき、大変うれしく思っています。
ぜひ誌面と合わせてお楽しみください。
📖 季刊アナログ vol.91 をご購入はこちら
(PHILE WEB.shop)