Works Amplifier SANSUI Repair

SANSUI AU-α907i MOS Limited

音が出ない・断続的に途切れる症状を改善し、MOS搭載アンプの安定性を取り戻す

Published: 2026年7月  |  Category: Works|プリメインアンプ修理事例  |  Crafted Audio Services

音が出ない、音が出ても断続的に途切れる、ボリューム操作時にガリが出る。
そうした症状が見られた SANSUI AU-α907i MOS Limited をお預かりし、故障箇所の修理と簡易メンテナンスを実施しました。

今回の不具合は、ドライバー基板およびパワーアンプ基板内のはんだ割れにより、回路の接続状態が不安定になっていたことが主な原因でした。
あわせて、出力リレー、ボリューム、各種スイッチ、RCA端子などにも経年による接触不良が確認されたため、各部を分解・清掃し、安定した動作状態へ整えています。

基本情報

メーカーSANSUI(サンスイ)
モデルAU-α907i MOS Limited
種別プリメインアンプ
発売年1987年
当時定価260,000円
症状音が出ない、出ても断続的、ボリュームガリ
作業内容故障修理+簡易メンテナンス

概要

SANSUI AU-α907i MOS Limited は、SANSUI創立40周年を記念して発売された限定生産モデルです。
パワー素子にMOS-FETを採用し、当時のSANSUIらしい物量と設計思想が込められたプリメインアンプです。

MOS-FET搭載機は、現在では部品そのものが貴重になっているものも多く、作業時には静電気対策を含めた慎重な取り扱いが必要になります。
また、この時代の高級アンプは、単に故障箇所を直すだけでなく、スイッチ、ボリューム、リレー、端子など、信号経路に関わる接点部の状態が音質や動作安定性に大きく影響します。

今回の作業では、オリジナルの状態をできるだけ尊重しながら、不具合の原因となっている箇所を見極め、必要な範囲で修理とリフレッシュを行いました。


診断

申告症状

「音が出ない」
「音が出ても断続的に途切れる」
「ボリューム操作時にガリが出る」

お預かり後の確認で、ドライバー基板およびパワーアンプ基板内に、トランジスタ周辺のはんだ割れが確認されました。
はんだが割れることで、接触したり離れたりを繰り返し、電気的に非常に不安定な状態となっていました。

このような状態では、電源投入直後は音が出ても、時間経過や振動、温度変化によって音が途切れることがあります。
また、出力リレーの接点にも経年による接触不良が見られ、音切れや不安定動作の一因となっていました。

ボリュームについても、メインボリュームとバランスボリュームの内部に汚れや摩耗粉が蓄積しており、操作時のガリ発生につながっていました。

確認された不具合

・ドライバー基板、パワーアンプ基板のはんだ割れ
・出力リレー接点の接触不良
・メインボリューム、バランスボリュームのガリ
・フロントパネル各種プッシュスイッチの接点劣化
・固定用ボンドの劣化による周辺部品への影響リスク
・RCA端子接続面のくすみ、白錆状の汚れ
・一部コンデンサの劣化


修理工程

01 状態確認・症状再現

まずは申告症状の確認を行い、音が出ない、または断続的に音が途切れる症状の再現を確認しました。
あわせて、ボリューム操作時のガリ、スイッチ操作時の接触状態、出力リレーの状態を点検しました。

02 基板部のはんだ割れ修正

ドライバー基板およびパワーアンプ基板内のトランジスタ周辺に、はんだ割れが確認されました。
割れたはんだ部分は接触が不安定になり、音切れや無音症状の原因となります。

該当箇所を確認し、必要な部分に再はんだ処理を実施。
通電時の接続状態を安定させ、断続的な音切れの改善を図りました。

SANSUI AU-α907i MOS Limited 基板のはんだ割れ箇所
SANSUI AU-α907i MOS Limited はんだ割れの拡大写真

はんだ割れ箇所の拡大写真。接触と離脱を繰り返す不安定な状態でした

03 出力リレー接点の清掃・測定

出力リレーは、経年により接点の抵抗値が上昇し、接触不良を起こしていました。
リレーを取り外して接点状態を確認し、接点清掃を実施しました。

清掃後は抵抗値を測定し、接点状態が改善していることを確認したうえで再装着しています。
音の出口に近いリレー接点は、わずかな接触不良でも音切れや左右差の原因となるため、丁寧な確認が必要です。

出力リレーの取り外し
出力リレー接点の状態確認
リレー接点清掃後の抵抗値測定
リレー接点の清掃作業

リレー接点の確認、清掃、抵抗値測定

04 ボリュームの分解清掃

メインボリュームとバランスボリュームは、完全分解を行いました。
内部に蓄積した汚れやガリ粉を除去し、摺動子のクリーニングを実施しています。

ボリュームのガリは、単に洗浄剤を吹き付けるだけでは一時的な改善にとどまる場合があります。
内部の状態を確認し、接点面や摺動部を適切に清掃することで、操作時のノイズ低減と安定した動作を目指します。

メインボリュームの完全分解
ボリューム内部のガリ粉除去
摺動子のクリーニング

ボリューム分解清掃の様子

05 各種プッシュスイッチの分解清掃

フロントパネルにある各種プッシュスイッチを取り外し、完全分解にて接点清掃を実施しました。
清掃後は専用グリースで接点を保護し、接触状態の安定化を図っています。

ヴィンテージアンプでは、スイッチ類の接触不良が音切れ、片chの不安定、ノイズ発生の原因になることが多くあります。
外から見えない部分ですが、信号が通る重要な接点です。

フロントパネルのプッシュスイッチ取り外し
プッシュスイッチの分解
スイッチ接点の清掃
スイッチ接点の清掃作業
接点清掃後のスイッチ組み立て
専用グリースによる接点保護

プッシュスイッチの完全分解と接点清掃

06 MOS-FET周辺の静電気対策

AU-α907i MOS Limited に使用されているMOS-FETは、静電気に弱く、現在では貴重な部品です。
作業時には静電気対策を行い、取り外したMOS-FETの端子にも保護処置を施しながら作業を進めました。

貴重なオリジナル部品を不用意に傷めないことも、ヴィンテージ機器の修理では重要なポイントです。

MOS-FET端子の静電気対策

取り外したMOS-FETの端子に静電気対策の保護処置

07 固定用ボンドの除去とコンデンサ確認

パワーアンプ基板では、電解コンデンサ周辺に固定用ボンドが使用されていました。
経年したボンドは変質し、周辺部品の腐食や不具合につながる場合があります。

該当箇所のボンドを除去し、周辺を清掃しました。
今回は簡易メンテナンスの範囲での作業のため、電解コンデンサを一律に交換するのではなく、静電容量とESRを確認し、不具合が認められるものを中心に交換しています。
今回はバイポーラコンデンサを交換対象としました。

固定用ボンドの除去箇所
コンデンサの静電容量・ESR測定

劣化ボンドの除去箇所と、コンデンサの測定確認

08 RCA端子の取り外し・研磨清掃

背面パネルのRCA端子は取り外し、接続面の研磨清掃を行いました。
この時代のアンプでは、金メッキ端子であっても表面に白錆のような汚れが発生している場合があります。

ただし、研磨しすぎると金メッキを傷めてしまうため、状態を見ながら慎重に作業します。
清掃後は接触面を整え、接続時の安定性を回復させています。

RCA端子の清掃前。白錆状の汚れが見られる
RCA端子の研磨清掃後

RCA端子の清掃前(左)と清掃後(右)

09 アイドル電流・オフセット調整、最終確認

修理作業後、アイドル電流とオフセットの調整を実施しました。
その後、筐体内外のクリーニングを行い、音出し確認、操作確認を経て作業完了としました。

SANSUI AU-α907i MOS Limited クリーニング後の筐体内部

筐体内部クリーニング後の状態


主な作業内容

基板はんだ割れ不具合箇所の再はんだ処理
出力リレー接点清掃、抵抗値測定、再装着
メインボリューム分解清掃、ガリ粉除去、摺動子清掃
バランスボリューム分解清掃、ガリ粉除去、摺動子清掃
プッシュスイッチ類取り外し、完全分解、接点清掃、接点保護
MOS-FET周辺静電気対策を行いながら慎重に作業
固定用ボンド劣化ボンド除去、周辺清掃
コンデンサ測定確認のうえ、不具合部品を交換
RCA端子取り外し、接続面の研磨清掃
最終調整アイドル電流、オフセット調整
仕上げ筐体内外クリーニング、音出し確認

修理結果

作業後、音が出ない、または断続的に音が途切れる症状は改善しました。
ボリューム操作時のガリも改善し、各種スイッチ操作時の接触状態も安定しています。

RCA端子や出力リレーなど、信号経路上の接点部も清掃・確認を行い、全体として安定した動作状態へ整えることができました。

改善された症状

・音が出ない症状の改善
・断続的な音切れの改善
・ボリュームガリの改善
・スイッチ接点の安定化
・出力リレー接点の接触改善
・RCA端子の接触状態改善
・アイドル電流、オフセット調整による動作安定化


技術者コメント

SANSUI AU-α907i MOS Limited は、当時のSANSUIが持っていた技術と物量が感じられる、非常に価値あるプリメインアンプです。
MOS-FETを搭載した限定モデルということもあり、現在では部品の扱いにも十分な注意が必要になります。

今回の作業では、音が出ない、音が途切れるという症状に対して、単に一箇所だけを見るのではなく、基板のはんだ割れ、リレー接点、ボリューム、スイッチ、RCA端子など、信号が通る部分を中心に確認しました。

ヴィンテージアンプでは、不具合の原因がひとつだけとは限りません。
はんだ割れ、接点劣化、端子の汚れ、部品の劣化が重なり、一つの症状として表面化していることが多くあります。

今回は簡易メンテナンスの範囲ではありますが、オリジナルの状態をできるだけ尊重しながら、必要な箇所を見極めて手を入れています。
むやみに部品を交換するのではなく、残すべき部分は残し、直すべき部分を確実に整える。
このバランスが、ヴィンテージ機器の修理ではとても重要だと考えています。

SANSUIらしい力強さと密度感を、これからも安心して楽しんでいただけるよう、各部を丁寧に仕上げました。